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吉松 隆:鳥のシンフォニア“若き鳥たちに”

大原 久子(ホルン)


 吉松隆は、今を生き今を知る作曲家である。


 吉松は1953年に渋谷で生まれた。音楽への「スイッチ」が入ったのは中学3年生の時だ。フルートを趣味にする父は、音楽の授業で交響曲のレコードを聴いた話を聞き、息子が音楽に興味を持ったことに喜んだ。レコードをプレゼントしてもらい、父が所蔵するスコアを見ながら「運命」を聴いた吉松少年は、作曲家になる決心をした。オーケストラがあるという理由で慶應義塾高等学校に進みファゴットを吹いた。作曲の勉強は、伊福部昭の『管絃楽法』を手始めに独学で行った。曾祖父が小児科医であったことから医学部への進学を考えていたが、作曲の勉強に忙しく推薦で工学部に進学する。シンセサイザーに興味を持ち、コンピューターを触りたいという理由であった。目的を達して大学を中退し作曲に専念する。


 吉松にとってのヒーローは、松村禎三そしてシベリウスである。
 とにかく交響曲を書きたかった。松村作品のエネルギーに圧倒された。コンクールへの応募を機に松村に弟子入りし、伊福部の孫弟子にあたる。当時の作曲の世界はいわゆる現代音楽(=前衛的で無調)でないと認められない風潮であったが、メロディがあって調性のある作品で挑み続けた。「魂の師匠」であるシベリウスには、二十世紀に生き、ヨーロッパ楽壇の中心から離れた自分と共振するものを感じたという。吉松作品の透明感のある響きや自然のモチーフは、シベリウスへの想いがベースとなっているのであろう。


 吉松には「鳥」をテーマとした作品が多い。
 出世作である「朱鷺によせる哀歌」(1980、弦楽オーケストラ作品)に始まり、サックスの名手・須川展也のために書かれた「サイバーバード協奏曲」(1991)や、代表的な管弦楽作品である「鳥たちの時代」(1986)などの鳥シリーズが主軸となっている。その理由として
1. 人間より遥かに昔から「歌」を操っている音楽家としての大先輩である。
2. 翼を持って大地のしがらみから飛翔する「自由」な存在である。
3. 空の彼方の異界と交感する「魂」の隠喩(メタファー)である。
の3つのポイントがあるという。
 鳥たちの歌は「ぴ」あるいは「ぴぴぴ」「ちちちち」というような断片的なパッセージの組み合わせでできている。(譜例1)これらを組み合わせてメロディ細胞のような「音形(モチーフ)」を作る。これが「素材」(鳥の旋律細胞)となる。(譜例2)さらに、その素材を構成する音は、無調や十二音のシステムではなくハッキリ調性感を伴う「旋法(モード)」を使う。いわば、現代音楽で使っていた「音列主義(セリエリズム)」や「クラスター」の発想を、「調性」の中で使ってみたら?という発想だ。そうすると、はっきり調性感のあるサウンドの中で現代音楽風の自由な手法が展開できる。(譜例3)(『作曲は鳥のごとく』~鳥の作曲法より)
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 今回演奏する「鳥のシンフォニア」は5楽章からなる20分弱の小交響曲である。当初は交響曲第6番にするつもりもあったが、委嘱作品であり、また少々短いことからこの曲名となったという。仙台ジュニアオーケストラの第20回記念演奏会のために書かれ、2009年に初演された。


第1楽章 Prelude:Moderato
 前奏曲。各楽器群が鳥たちの歌を受け継いでいき、それらは重なって自由に羽ばたいていく。鳥たちの歌の楽譜には「自由に」と記され、「拍節にとらわれず鳥がさえずるように自由に(アドリブを交えて)奏すること」と指示されている。


第2楽章 Toccata:Allegro animato-meno mosso
 技巧的なパッセージの繰返しと和声進行的な部分からなるトッカータ。バッハのトッカータとフーガと同じニ短調で書かれている。疾走する4拍子はドラマチックで、若い鳥たちが希望に向かってるかのよう。


第3楽章 Dark Steps:Allegro
 スイングとブルーノート・スケールで書かれたジャズ風の楽章。Darkとは、ミ♭、ソ♭、シ♭が入ることで、テンションがかかり暗い響きになること。時折出現するアドリブ風・ソロにも、鳥の音形が使われている。


第4楽章 Nocturne:Andante amabile-Allegro
 夜想曲。ゆったりとロマンティックに歌われる。夜の森の中で、鳥たちが羽を休め語り合う情景が浮かぶ。


第5楽章 Anthem:Moderato
 仙台ジュニアオーケストラ創立20周年を祝う讃歌(アンセム)。3連符に乗って高らかにメロディが鳴り響き、勇壮にティンパニが躍動し、最後はハ長調で開放的に終わる。


~鳥のシンフォニアによせて~ 吉松隆
 私がクラシック音楽に目覚めたのは、中学から高校にあがる頃でした。そして、高校のオーケストラでファゴットを吹き、あらゆるジャンルの色々な音楽を聴きあさりながら、オーケストラの作曲家になる夢に燃えていました。ですから、今回、仙台ジュニアオーケストラのために書いた「鳥のシンフォニア~若き鳥たちに」は、そんな十代の頃の私が「こんな曲があったら…」と思っていた「見果てぬ夢」を反映しています。
 それは…「カッコよくてスピード感があってオーケストラがバンバン鳴って、でもメロディを静かに歌う部分もあって、現代風だけど分かりやすく、楽譜はきっちり書かれているけど自由に演奏できる部分もあって、あんまり難しくなく、でもやさしすぎない曲」。
 作曲家にそんな注文を出したら、「ありえない!」と叫んで、たぶん卒倒することでしょう。でも…今回、敢えて(無謀にも)そんな夢に挑戦してみました。(もしかしたら大失敗かもしれませんが…)タイトルの「シンフォニア」は、「若い交響曲」というような意味で名付けました。5つの短い楽章からなり、これから音楽の広大な森を自由にはばたく「若い鳥たち」によせる5つの賛歌です。
 自分の街にオーケストラがあって、そこで新しい音楽が生まれ、そこから新しい音楽家が巣立つ。そういう「森」を育て、「鳥」を大きく羽ばたかせることこそ、何にも代えがたい「音楽の力」です。この曲が、そのささやかな「夢の証し」になればと願ってやみません。

(初演時のプログラムノートより)


初演: 2009年11月1日
 仙台市青年文化センターコンサートホール
 山下 一史指揮 仙台ジュニアオーケストラ
楽器編成: ピッコロ1、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、打楽器4(ティンパニ、バードコール、トライアングル、ウインドチャイム、ウィンドベル、カウベル、タンブリン、ウッドブロック、シンバル〔合わせ、吊り、ハイハット〕、小太鼓、トムトム、大太鼓、タムタム、木琴、グロッケンシュピール)、ピアノ、弦五部
参考文献
 吉松隆『作曲は鳥のごとく』春秋社 2013年
 吉松隆『調性で読み解くクラシック』ヤマハミュージックメディア 2014年

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