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鑑賞に役立つ? トランペットのウンチク

トランペットの小出 一樹と申します。維持会の皆様にはいつも大変お世話になっております。感謝申し上げます。

各楽器の奏者のリレーエッセイ(?)が進み、トランペットの順番がやってきたとのことで、今回の執筆のご指名を受けました。どんなことを書くのがふさわしいのか難しいところですが、いつも熱心に聴きに来て下さる皆様が、演奏を聴くときの隠し味になるような楽器にまつわるウンチクをご案内できればなどと考えてみました。といっても、いわゆる普通の「楽器紹介」のようなものは世間に詳しいものが色々あると思いますので、そういった一般的な紹介とは少し違った、私なりの視点で何かご紹介できないかと思いつつ書き進めてみました。その結果、書いているうちにどうしても私好みのマニアックなラッパ談議に話が傾きがちになってしまったところがあります。その辺をあらかじめお許し願いつつ、読み進めていただければ幸いです。

トランペットという楽器は、その音や形を多くの皆様がご存知なのではないかと思います。演奏会会場や写真・イラストで見て、それとわかる方が少なくないのではと思います。まずは見た目のことからお話していきます。

*見た目の色と音のとの関係
殆どのトランペットは、銀色だったり金色だったりと、金属的な光沢のある見た目をしています。トランペット自体は真鍮(銅と亜鉛の合金)で出来ていますが、真鍮のままだとすぐに腐食して光沢が曇ってしまったり、楽器を持つときにいちいち錆が手についてしまい汚れたりカブれたり大変なことになるので、大抵何らかの塗装がしてあります。
塗装は銀メッキ、ラッカー(樹脂による塗装)仕上げ、金メッキの3種類がほとんどを占め、数的にこの順番で流通しています。銀メッキはクリアで軟らかい音色、ラッカーはパワフルでつややか、金メッキは華やかで音が割れにくいなど、それぞれの特徴があります。非常に大雑把に言って、クラシックでは銀メッキや金メッキが使われることが多く、ジャズやポップスなどではラッカーが多い傾向があります。それぞれ必要とされているサウンドを追求していった結果、そういう傾向になっているのだと思います。新響のトランペットセクションで使用されている楽器も、一番多いのは銀メッキの楽器、次に金、ラッカーといった感じです。
トランペットの構造は比較的単純で、ホルンやチューバといったほかの金管楽器に比べると、曲がっている管の本数なども少なく、直線的でシンプルに見えると思います。また、演奏の中での役割も、曲が盛り上がって音の大きくなったところで目立ったことをして見栄を切るといった大味な役割が特徴的(!)なので、なんとなく楽器自体もあまり難しい部分はないのでは?と思われる節があるかもしれません。しかし、トランペットにも繊細な要素があります。次に楽器の作りと音への影響についてのお話をしたいと思います。

*細工で音が変わる
例えば、楽器を横から見たときに特徴的なこの支柱、写真1では2本立っていますが、機種により1本だったり、無いものもあります。見た目的にいかにも楽器の強度を保つための、補強のための支柱に見えますが、実は強度的にはこの支柱は無くても大丈夫で、これは音色や吹奏感(吹いた感じ)を整えるための調節を行う目的でここにあります。
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似たような目的の支柱はほかにもいくつかあり、中にはネジを差し込まないのに支柱の中にネジ溝が彫られている(写真2)といった、見た目では意味が分からない加工が施されているものもあります。これは楽器の開発段階で、無数の形や大きさの部品をあちこちつけたり外したりしながら、意図したサウンドが出せる楽器にするために行われた試行錯誤の結果なのです。
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こうした部品の場所が数mmでも違ったり、数gでも重さが変わったりすると、音にダイレクトに影響します。例えば、洗濯バサミを楽器のどこかに適当につけただけで音や吹奏感が変わってしまい、全く別の楽器の様になってしまうことがあります。そうした繊細さを利用した、楽器をチューニングするための部品も色々販売されています。
しかし、買った楽器自体に自分で何か細工をして音を改善するのは実際には難しいことが多い様に思います。練習を重ねて音を良くするより、道具をなんとかして良くなるならその方が楽なわけで、何かがうまくいかないときに楽器をいじくりたくなるのは人情ですが、残念ながらあまり良い方向の変化に結びつかないことが多い様に思います。私も一部の楽器でネジやバネを形や材質の違うものに変えていますが、それですごく吹きやすくなったかどうか、あるいは音がよくなったかどうか、変えた当初は少し何かが変わったように思えても、しばらく使っていると変える以前の状況もだんだん忘れてきたりして、残念ながら効果はあまり定かではありません。そこで悩める演奏者が次に工夫を考えるのがマウスピースです。次にマウスピースのウンチクについて、お話したいと思います。

*マウスピースのウンチク
マウスピースとは口に当てる部分の長さ約8.8cmの部品です(写真3)。
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人の唇の形や歯並びは千差万別ですし、また演奏で奏でたい音も人それぞれであるばかりか、曲や状況でも変わってきます。マウスピースはそんな様々なニーズに対応するべく、色々なサイズのものが用意されており、状況に合ったものを選べるようになっています。
楽器を作っているメーカーはだいたいマウスピースも製造・販売しています。日本のヤマハは約40種類、アメリカのバックというメーカーは約100種類のラインナップです。その他、アメリカやヨーロッパにもこうしたメーカーがいくつかあるほか、マウスピースを専門に製造しているメーカーもあり、それぞれが数10種類の製品を備えているので、理論的には数100種類の中から選べることになります。それぞれのメーカーのカタログには、要所となる部分のサイズや、大まかな用途が解説されているので、今自分が必要としている物のだいたいの当たりを付けることができます。現在使用しているマウスピースのサイズとの違いや、解説部分に書いてある用途などを参考にして選ぶのです。例えばあるメーカーのオーケストラでの使用を想定したマウスピースの解説部分には、「落ち着きのある重厚な音を好むオーケストラ奏者向き」とか「パワフルなダークサウンド。本格的なシンフォニーオーケストラ奏者向けの代表品」といった、演奏者の心をくすぐる文章が踊っています。
多くの奏者は、初心者の段階でたまたまそこにあった、あるいはしかるべき先輩や先生に勧められたマウスピースを使い楽器を始めると思われますが、前述の通り何か演奏に行き詰った時、マウスピースを工夫することで解決を図ろうとすることがあります。つまり、マウスピースをもっと良い、自分のニーズに合うものに変えればいいんじゃないか?と思うわけです。
しかし、数多くの既製品があってもそのすべてを取り揃えている店はありませんので、試しに手に取ってみることのできる種類は限られます。入手可能な中で色々試してみた結果、これとこれの中間のサイズがあるといいのになどといった微妙なニーズが発生することもあります。また、楽器店や専門の工房の中にはマウスピースのカスタマイズを受け付けているところもあります。知り合いから「あそこの工房に頼んで中を少し削ってもらったら吹きやすくなった」などといった話を聞いてしまうと、演奏に悩みがあるときほどそういう話には惹かれてしまいます。そこで既製品で満足がいかない場合、自分用にマウスピースをチューニングしたら良くなるのではなどと考えてしまうことがあります。チューニングについての詳細は本当にマニアックになってしまうのでご紹介を避けますが、こうしたチューニングは諸刃の剣で、うまくいくととても良い結果が得られる一方、うまくいかないときは結局どのマウスピースを使ってもうまくいかないという、脱出困難な深みにはまっていってしまうことがあり、注意が必要です。こうした工夫の変遷を経た結果、結局元のマウスピースに戻したなどという話はよく聞きます。ですから私自身は、問題に対して道具を工夫してみる努力は行ってみるべきだと思いますが、それだけで何かを解決しようというような過度な期待や追及は禁物であろうと思っています。
実際、私もこうした「マウスピースの旅」(!)に出て色々翻弄されたことがありましたが、幸い人づてに信頼できる工房にめぐり逢ってチューニングを受け、さらにそのマウスピースや楽器に対する考え方を指南してもらうことができました。その結果、いまでは「これでうまくいかなかったら道具のせいでなく自分のせい」と思えるもので演奏ができるようになりました。

以上、楽器のウンチクをご案内すると言いながら、実は私の体験談みたいな話になってしまいましたが、私なりの(だいぶ偏った)視点で、トランペットについてのご紹介をさせて頂きました。トランペットに関わりの無い方にはどうでもよいようなお話も多々してしまいましたが、他の楽器の奏者と同じく、トランペットの面々も色々とこだわりを持って楽器に取り組んでいるというイメージが少しでも伝わり、演奏をお聴きになるときのほんのちょっとした隠し味になっていただけましたら幸いです。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

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