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打楽器パートより維持会員の皆様へ

 維持会の皆様、こんにちは。打楽器パートの桑形 和宏(くわがた かずひろ)です。
 留年が決まった大学4年生の1982年冬に入団、芥川先生指揮の第99回定期演奏会『青春の作曲家たち』でデビュー後、あっという間に30年以上が経過してしまいました。今では、練習のない土曜日に他のことをやっていると、「本当に今日は練習がないのか」と不安になってしまうほど、新響が完全に生活の一部と化しています。
 さてこのたび、当「維持会ニュース」に拙文を掲載してもらえることになりました。「維持会と打楽器」を軸に、我がパートのメンバー紹介や自らの自慢話、そしてオーケストラに多大な影響力を発揮する「ティンパニ」について書いてみることにしました。しばらくお付き合いくだされば幸いです。


1)維持会と打楽器
 演奏会当日にお配りしているプログラムの最後のほうに、「新交響楽団維持会のご案内」というページがあり、そこには、「……。集まった会費は、ティンパニ……テューブラーベル等の楽器購入や」と記載されています。
 そうなんです。維持会費で買っていただいた楽器なくしては、わが打楽器パートの、さらに言えば新響の演奏は立ち行きません。まず始めに、この場をお借りいたしまして、深く御礼申し上げます。
 しかしながら、いただいた維持会費でどんな打楽器を購入したのか、申し訳ないことに、これまで細かくご報告できる機会がほとんどありませんでした。今回お伝えできる機会をいただけ、少しだけ胸のつかえがおりた思いです。
 と申しましても、大小含め相当数の楽器をお世話いただいており、全部を書ききることはできません。そこで今回は、ステージ上でひときわ目立つ5種類について、どんな楽器なのか、そしてそれはいつどんな場面で登場するのかを写真入りで紹介いたします。


2)楽器紹介その1
 まず、5種類のうちの2種類を紹介いたします。
1:テューブラーベル
 i235-1.jpgのど自慢で有名なアレ。音程のある金属の棒が計18本ぶら下がっており、主に木槌で叩きます。木槌は、最寄りのホームセンターで購入することがほとんどです。とても重い楽器で、持ち上げるには最低でも4人は必要です。
 これまで、矢代秋雄先生、石井眞木先生などの邦人曲で大活躍したのをはじめ、『タラス・ブーリバ』や『展覧会の絵』などにも登場しました。今後は、2017年4月に演奏予定の『こうもり』序曲で、1本だけですが使用します。
 今年7月の演奏会では、三善晃先生の『管弦楽のための協奏曲』に1回だけ登場しました。また、ベルリオーズ『幻想交響曲』の第5楽章に出てくるカリヨン(教会の鐘)の代用楽器として、練習時には重要な役割を果たしてくれました。
2:アンティークシンバル
 i235-2.jpg別名クロタル。音程がある金属製の円盤が並んだ、優しい音のする楽器。使用頻度はそう多くはないのですが、ラヴェルやプーランクといったフランス音楽、邦人作品などで使用してきました。
単音で使用する際には、円盤を取り外し、手に持って演奏することも多いです。来年1月の『牧神の午後~』では、手に持って演奏し、この世のものとは思われない美しい音を響かせる予定です。
アマチュアオーケストラでこの楽器を所有している団体は、そう多くはないと思います。さらに新響では、2セット(2オクターブ)所持しており、この上ない贅沢を享受しています。


3)楽器所有の2つのメリット
 本稿でご紹介しているような、考え方によってはある意味「特殊な」打楽器を団で所有、すなわち維持会費で購入させていただいたことにより、大きなメリットがうまれています。
1:財政上のメリット
 先ほど「特殊な」と申し上げましたが、邦人作品を含めた近現代の作品を演奏する機会が多い新響では、結構使用頻度が高く、「やや特殊な」くらいの感じでしょうか。
 未所有の楽器が必要な場合、どこかから調達する必要があります。他団体のご好意に甘えて使っていない楽器を借りたり、団員が私物を持ち込んだりして対応していますが、それにも限界があります。さすがに、私物のテューブラーベルを持っている団員はいません。その際にはリース屋さんから借りることになりますが、結構お金がかかるもので、毎回の練習に借りていたら大変なことになってしまいます。
 下世話な話で恐縮ですが、2シーズン使えば、購入代金はほとんど元が取れてしまうといっても過言ではありません。それ以降はもちろん費用がかからないわけで、財政面で非常に助かる結果になっています。
2:練習上のメリット
 本番で使用する楽器で毎回練習できるという、理想的なリハーサルが可能になりました。楽器の特性、演奏上の立ち位置、音量に対する力加減などを、計12~13回の練習の都度確認しながら演奏会当日を迎えることができています。演奏する側としては何よりもありがたく、とても助かっています。贅沢な練習環境に身を置けることに、改めて感謝申し上げなければなりません。
 前回の『幻想交響曲』では、ステージリハーサルを含めて3回の練習にカリヨン(鐘)をリースしました。自分の適応力の低さを棚に上げて申し上げますと、少ない練習回数でタイミングや音量、叩く場所による音質の違いなどの楽器の特性を把握するのに、非常に苦労しました。しかし、「運営委員会」に「カリヨンを買ってくれ」と訴えても、相当高価なため、まず許可は下りなかったでしょう。


4)楽器紹介その2
 ここでも2種類紹介します。最後のひとつ「ティンパニ」につきましては、私の思い入れも含めて、最終章で詳しく紹介させてください。
3:シロフォン
 i235-3.jpgいわゆる「木琴」です。使用頻度は高く、今年7月の三善先生の作品で大活躍、今回の『鳥のシンフォニア』でも重要なパートを受け持っています。
 西洋音楽での出番も多く、ショスタコーヴィチをはじめとする多くの作曲家にとって、欠かせない楽器になっています。来年1月定期の『火の鳥』全曲版には、オブリガート風の難しいパッセージが出てきます。団員の名人芸にご期待ください。
 ところで、シロフォンに限ったことではありませんが、大型打楽器には悩みがあるのです。それは、楽器の支えの部分や車輪に相当ガタがきているという悩みです。新響には専用の練習場というものがありませんので、毎回「楽器運び」が発生します。その際の「転がして運ぶ」ことの繰り返しがその原因です。
 楽器運びを手伝ってくれる団員も状況を承知しており、とても丁寧に運んでくれるので大変助かっています。と言っても、現状はだましだまし使っているのが正直なところです。
4:ヴィブラフォーン
 i235-4.jpgクラシック、というよりもジャズを思い浮かべる方が多いかもしれません。
 外見はシロフォンに似ていますが、全く異なる楽器です。まず、鍵盤が金属であること、そして電源を使用して鍵盤の下でファンを回すことにより持続音がビブラート(振動)すること、さらにはペダル操作によって音の長さが調節できること、です。
 前回の三善先生の作品をはじめとする邦人作品で時折使用されます。また、『ウェストサイドストーリー』後半部分に登場する難しいパッセージは有名です。
 ただ、音量に乏しいことが欠点といえば欠点で、オーケストラが大音響で鳴っている部分には、ほとんど使われることはないようです。
 なお、この楽器を初めて使用した純音楽作品は、アルバン・ベルクのオペラ『ルル』であると言われています。私は、上下2巻のスコア(総譜)を持っていますが、結構出番があるので驚いた記憶があります。


5)打楽器のパート事情
 現在の在籍団員数は4人、若者から壮年までの幅広い年齢層、旅行業や作家などといった多種多様な職業構成、そしてどんなに忙しくても打楽器から足を洗えないメンバーが揃った、極めて魅力的な集団です。私以外の3人はとても器用で、どんな種類の打楽器でも、そつなく演奏することができます。私は、特別支援学校で進路指導を担当しており、あまり学校にはおらず、多くの時間を生徒の進路先訪問に費やす毎日を送っています。
 しかし、メンバー数は全盛期の8人から半減してしまいました。8人が在籍している際には、出番を確保するのに苦労していましたが、今ではエキストラ(プログラムには「賛助」と記載)に頼っているのが現状です。理想の団員数は、5~6人といったところでしょうか。
 幸い、今回の演奏会では1曲の必要人数が最大で4人のためにエキストラをお願いする必要はないのですが、最近では例外的なことです。
 エキストラは、4~5人の決まった方々に助けてもらっています。交通費や練習後の飲み会等で確実に足が出ているにもかかわらず、皆さん笑顔で、そして完璧に練習して参加してくれます。エキストラの方々の演奏に、大きな刺激を受けることも多いです。特にお願いする機会が多いS氏は、18歳のころから一緒にティンパニを教わった兄弟弟子で、約30年ぶりに旧交を温めることができました。
 現在の最大の悩みというか課題は、新響に打ち込んでくれる新入団員を迎えることです。
 なかなか入団希望者が来てくれない打楽器パート、一部の団員からは、「パートに威圧感がある」「雰囲気が近寄りがたい」などと指摘されていますが、それは大きな誤解です。腕自慢の方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、練習を見学に来てみてください。


6)ティンパニ
 最後はいよいよティンパニです。オーケストラ曲には必ずと言ってよいほど使用されており、新響の演奏会ではいつも最後列中央に鎮座しています。来年1月に取り上げる『牧神の午後~』のように、ティンパニが使われていない曲もありますが、少数派と申し上げてよいでしょう。
 ティンパニには明確な音程があり、作曲者の指示に従って調律します。曲の間で音高を変えることもしばしばです。また、楽器の大きさによって、使用可能な音域が異なります。
 以下、私の独自の考えを表明してしまう個所が時々登場するかもしれませんが、どうかお許しください。
1:新響には6台のティンパニが
入団してからしばらくの間は、団の所有する楽器は4台でした。23,26,29,32(単位はインチ、概ね打面の直径)の、大きさが異なる4台です。
その後、無理をお願いして26,29を各1台ずつ買って戴き、現在の6台所有に至っています。なぜ同じ大きさが2台ずつあるのか疑問に思われるかもしれませんが、このことによって、できない曲が大幅に減ると同時に、演奏の幅が限りなく広がりました。事例は限りなくあるのですが、いくつか具体的に述べてみます。
(1)ショスタコーヴィチの交響曲第10番の終結部には難易度Аクラスのティンパニのソロがありますが、これは以前のような大きさの異なる4台では演奏できません。なぜなら、32インチの楽器では要求されている「シ」の音が音域外のため出せないからです。また、「レ」もしくは「ミ♭」を、23インチで出さなければなりません。楽器が小さいうえに23インチの最低音に近いためヘッド(皮)がゆるんでおり、張りのある音が出にくいのです。この2つの問題は、右から26,26,29,29というように並べると容易に解決でき、安心して気持ちよく演奏に臨むことができました。
(2)今年4月に演奏したマーラーの『復活』。作曲者は7台でできるように書いていますが、新響の場合は所有楽器の音域の関係上、実際には9台必要となります。しかし、1台だけ借りて楽器を掛け持ちするなどの工夫をし、支障なく練習を進めることができました。本番は舞台裏用にもう1台借りましたが、もし4台しかなかったら、練習のたびに最低3台は借りねばならず、運搬と財政面での負担が大きくなったことでしょう。
(3)三善先生の『管弦楽のための協奏曲』は4台で演奏できるように書かれていますが、音替えが目まぐるしく、本番に向けて危険を感じていました。そこで「ファ♯」に調律した5台目の楽器を用意したところ、はるかに容易に演奏できるようになりました。このようなことは、6台に増えた当初から頻繁に行なっています。ぎりぎりの音替えや難しい手順を 要求される場合、別に1台用意することで非常に安心して演奏でき、とても助かっています。贅沢な話ですね。
(4)7月に演奏した『幻想交響曲』の4,5楽章は、2名のティンパニ奏者を要求しています、これは管楽器の1,2番とは少々異なり、単に音が違うだけで2名は全く対等の扱いです。6台楽器があるおかげで、(26,29)を2セット用意でき、練習初日から本番と同じ条件で取組むことができました。
(5)『ジュピター』や『運命』、そして今回演奏するブラームスの1番など、「ドとソ」を指定している名曲は数多くあります。これまで(26,29)または(29,32)のセットで演奏せざるを得ませんでしたが、曲によっては(29,29)と同じ大きさの楽器で演奏したほうがより良いと考えられる場合があります。現在の新響では、それが可能なのです。
2:ティンパニとの長い付き合い
 中学生の頃、私が入団する以前に新響でホルンを吹いていたN氏(歳は離れていますが従兄弟です)からもらった『第九』のレコードを聴いたのが、ティンパニとの出会いです。曲の美しさもさることながら、「なんとすばらしい音がする楽器なんだ」と心底感動したことが思い出されます。
大学入学後、前述のS氏と一緒にМ先生に師事し、一から教わりました。習いたての頃は、「大きい音も大事だが、美しく小さい音を自在にコントロールしたい」と思い、練習に励んでいました。今でも、大きい音よりは小さい音のほうに自信があります。
転機が訪れたのは、縁あってある演奏会に出演できることになった大学3年生の時(おおげさですいません)。そのとき首席フルートを吹いていたのが、本維持会ニュース編集長の松下さんです。30年以上も前で記憶が定かではありませんが、確か最初の練習の時、指揮者から「全体的にティンパニが小さすぎる」と指摘され(松下さん、覚えてますか?)、大ショックを受けました。それからは「美しく気持ちのこもった大きな音」を目指して練習に打ち込むようになり、現在に至っています。
ちょうど耳の高さに打面があるトランペットとトロンボーン、テューバのメンバーには、相当ご迷惑?をかけていることと思います。
 ところで、今までで一番大きな音を出そうと思ったのは、ブルックナー8番の4楽章の最初。逆にできるだけ小さな音を出そうと思ったのは、『トリスタンとイゾルデ』です。どちらも、指揮は飯守先生でした。
3:ティンパニのバチ
 i235-5.jpg一概には言えませんが、原則として、柄の先にフェルトを丸く巻いたものをバチとして使用します。今回演奏する『タプカーラ交響曲』には、ワイヤーブラシで叩いたり、少し痛いですが手で直接叩いたりする奏法が登場しますが、これは特殊な例だと思います。他に、例えば『幻想交響曲』4楽章後半部分のように、作曲者の指定で、フェルトが巻かれていないネギ坊主のような形をした木のバチで叩くこともあります。
 私は約30組のバチを所有しており、その日の気分に左右されながらも、その場にあった音を想像しながらいろいろなバチを使い分けています。頭の大きさやバチの重さで、また叩き方で、硬い音、柔らかい音、重めの音、軽めの音を出していきます。本番ではいつも10組ほどステージ上に持ち込んでいますが、実際に使うのはそのうちの半分ほどです。
 ここでは、柄の材質によってバチを3つのカテゴリーに分けて紹介します。愛用のバチの一部を、写真左より「竹バチ」「木のバチ」「アルミシャフト」の順番に並べてみました。違いがお分かりいただければ幸いです。 
(1)竹バチ:柄の部分が竹、または合竹でできており、ややしなるのが特徴。重さは1組で約50g。私の持っている竹バチのほとんどは、長年打楽器トレーナーとしてお世話になったS先生の手作りです。
(2)木のバチ:柄の部分が木でできており、見た目ではしなりはありません。1組で約90g。ティンパニを習い始めのころから使っているものばかりで、刻印が手垢ですり減って、見えなくなっています。
(3)アルミシャフト:愛称は「金属バット」。1組で約180gもある、格段に重いバチ。「ここぞ」というときに使用します。
 最近、古関君がこのバチを多用するようになり、うれしい限りです。現在、ブラームス1番の冒頭でこのバチを使うかどうか悩み中です。
 余談ですが、できるだけ長く打楽器を続けられるよう、また、重量のあるアルミシャフトのバチを自在に操れるよう、スポーツクラブでの筋トレを欠かさないようにしています。いちばんきついのは、鏡の前に立って行う、9㎏のダンベルをバチに見立ててのシャドートレーニングです。先日指を痛めてしまいましたが、もう大丈夫。原稿書き終わったら行ってきます。
4:ブラームスの第1番
 何十年もオーケストラをやっていると、昔やった曲を再度演奏する機会がどうしても多くなってきます。今回のブラームスの1番もそのうちの1曲です。同じ曲を演奏する際には、昔のことを忘れ、改めて1から譜面を見直すようにしています。
 今回特に強く意識したいことは、音色と音質です。この曲でブラームスは、ティンパニの音符を、「・」のスタッカートが付いている音、楔形のスタッカートが付いている音、そして何もついていない音の3種類に書き分けています。
 その違いが少しでもオーケストラ全体に寄与できるように頑張ります。
 もうひとつ、お恥ずかしいことに、今回あることに気付きました。この曲のティンパニには「ff」が非常に少なく、1楽章に3か所(繰り返し部分は除く)、4楽章に2か所の計5か所しかないのです。最後は非常に盛り上がって曲が終わりますが、この部分も「ff」ではなくただの「f」のままなのです。前回の演奏では、オーケストラの盛り上がりの流れに乗って強打してしまいました。
 ないと困るけれど大きすぎるのはよろしくないと考えたのか、興奮したティンパニ奏者の強打を防ぐ意味でそうしたのか、真意はよくわかりません。本稿〆切後の10月1日にトレーナーの石内先生のパート練習があるので、忘れずに訊いてみることにします。


 以上、長々とおつきあいくださり、どうもありがとうございました。
 今後も、維持会の皆様を頼ってしまうことが多いかと思います。その節は、くれぐれもよろしくお願い申し上げます。

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