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昔のクラオタ、久しぶりにお宝発見!

品田 博之(クラリネット)


 いきなり私事で恐縮ですが、クラシック音楽を熱心に聴き始めてからすでに40年以上が経過してしまいました。どんなきっかけで夢中になったのかはっきりと覚えていないのですが、中学生のころには『FM fan』という雑誌を必ず購入して熱心にFM放送でクラシック音楽を聴いていたものです。この雑誌には二週間分のFM放送の番組表が載っており、放送する曲名、演奏者と演奏時間が詳細に記載されていました。発売日に必ず購入し、番組表の中から面白そうな曲を見つけては赤線を引いていきます。交響曲、交響詩、協奏曲、室内楽曲などで聴いたことのない曲があれば必ずチェックをつけ、FM放送をオープンリールテープまたはカセットテープに録音するわけです。聴きはじめた頃はほとんど知らない曲ばかりですから番組表は真っ赤になりました。しかし録音テープは決して安くはなかったので中学生の小遣いで買える分量は高が知れており、とても全部録音できるわけがありません。そこでクラシック音楽に関する雑誌の記事や本を読んで自分が面白いと思う曲を厳選して録音したものでした。そうやって少しずついろんな曲を知っていったのです。
 最初の頃はとにかく毎回が超名曲の発見ばかりで、楽しくて夢のようでした。ブラームスの交響曲第3番をはじめて聴いて、とても美しいけれど恥ずかしいメロディーの第三楽章に感動し、カッコよく始まる第四楽章ではどうして最後しょぼくれて終わってしまうのか納得がいかなかったこと(まだ若かったのです)や、マーラーの交響曲第1番を始めて聴いて、これぞ求めていた作曲家だ、とばかりに舞い上がる思いだったことなどが鮮明に記憶に残っています。そこらをちょっと掘れば必ずお宝を掘り当てるみたいな感じでした。とは言っても最初に聴いてすぐに感動するということは少なくて、なんだか凄そうなところがあるぞ と感じて何度も繰り返して聴いているうちに、完全に嵌まってしまうということが多かったものです。
 しかし、いつの頃からか掘っても掘ってもお宝になかなか巡りあわなくなっていきました。最初に聴いたときになんだか凄そうだと感じる箇所が全くないし、我慢して何度繰り返して聴いてもさっぱり感動しない曲が増えていったのです。
 そのあたりからは徐々に指揮者や演奏家の違いのほうに興味が移って行き、聴く曲のレパートリーを広げることはあまりしなくなりました。オーケストラに所属して演奏していても聴いてつまらない曲は、演奏してもいくつかの例外を除いてはやはりつまらないと感じました。忘れられた名曲などと称される曲を取り上げたことも多数ありましたが、まあ悪くないかもねと思う程度のものがほとんどだったものです。もう、新しい曲を見つけて心ときめくことなどはないのだろうなと半ばあきらめの境地(大げさですが)で長年過ごしていたのです。


 今回のコンサートを寺岡清高氏に指揮していただくということが決まったとき、どんなプログラムを新響案として候補にあげようか考えました。新響ではすべての団員が平等にプログラム案を提案することができるのです。寺岡氏の過去のコンサートを調べてみたらフランツ・シュミットという作曲家を多く取り上げられていることが分かりました。フランツ・シュミットという作曲家の存在はかろうじて知っており、音源もひとつだけDAT(デジタルオーディオテープ)に録音したものを持っていましたが、1回しか聴くことができないうちに再生装置が壊れてしまい、そのままお蔵入りになっていたのでした。今回“ひょっとしたら”と気を取り直してYouTubeで聴いてみたところ、“なんだかこれは凄そうだ”という、中高生の頃に超名曲たちを生まれて初めて聴いたときのような感覚が走ったのです。そこで音源を購入して何回か聞いてみたところ、この曲は久しぶりにめぐり合えた真のお宝(超名曲)であると感じるに至りました。その曲こそが今回取り上げるフランツ・シュミットの交響曲第4番なのです。久しぶりにめぐり合えたお宝です(あの時DATが壊れてよかった!)。
 シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンなどの新ウィーン楽派の無調音楽や、ドビュッシーのバレエ音楽“遊戯”、ストラヴィンスキーの“春の祭典”などの革新的な音楽が発表された20年も後の1930年代の曲なのですが非常にロマンティックであり、シューベルト、ブラームス、ブルックナーそしてマーラーの流れが行き着いた終着点のような音楽です。そして、ただの懐古趣味の音楽では全くなくて、非常に複雑な転調とシュミット節とでもいうような強い個性が感じられる音楽でもあります。うれしいことに決して不快な和音は出てきません。旋律は深い憂いをもっており心がしめつけられるような美しさがあります。特に第二楽章は、いつまでもこの中に浸っていたいと思わせる音楽です。第一次世界大戦を経験し、さらにナチスの台頭で風前の灯となって滅びゆく古きよきウィーンを偲ぶような気にさせます。そんなわけで久しぶりにお宝にめぐり合って舞い上がってしまいました。


 そんなわけで手当たり次第にフランツ・シュミットの他の曲を調べてみました。交響曲は四曲、オペラ、オラトリオ、ピアノソロと管弦楽のための“ベートーヴェンの主題による変奏曲”、騎兵の歌によるオーケストラのための変奏曲、三曲のピアノ五重奏曲、二曲の弦楽四重奏曲など、それほど曲数は多くないですが聴き応えのある曲が揃っていました。特にオペラ“ノートルダム”は間奏曲だけが非常に有名ですが、充実した音楽で構成されたオペラです。交響曲は第2番と第3番が第4番と比較しても遜色のない名曲といって良いでしょう。オラトリオ『七つの封印の書』はまだ断片的にしか聴いていませんがとんでもなく凄そうです。
 また、ピアノ五重奏曲のうちの二曲がピアノ、ヴァイオリン、クラリネット、ヴィオラ、チェロという非常に珍しい編成で、しかもかなりの力作でした。クラリネットが入っているので楽譜も入手しました。


 さて維持会員の皆さま、新交響楽団の第231回演奏会のプログラムを見て、なんだか知らない曲がメインだから今回はパスしようか、秋の観光シーズンで連休だし・・・・などと考えている方いらっしゃいませんか!それは大変もったいないですよ。フランツ・シュミットの交響曲第4番はマーラー級の名曲です。マーラーなら他のオケでもどこかですぐにやるでしょうがフランツ・シュミットはそうそう演奏されません。それも、フランツ・シュミットの活躍したウィーン在住で、フランツ・シュミットを重点的に取り上げている寺岡氏の指揮で聴けるのですからこのチャンスを逃す手はありません。ぜひ聴きにいらしてください。なお、事前にYouTubeなどで数回聴いておくとフランツ・シュミット流の複雑な転調に耳が慣れて生の演奏をより一層堪能できると思います。


 蛇足ですが、前述のクラリネット入りのピアノ五重奏曲変ロ長調の第二楽章と第三楽章を新交響楽団室内楽演奏会(9月27日17時開演 地下鉄有楽町線護国寺駅徒歩5分の同仁教会 入場無料)にて演奏いたします。この曲は交響曲第4番とほぼ同時期の1933年につくられた曲で、全体を覆う雰囲気は共通する部分があります。この曲は交響曲第4番よりも聴く機会がかなり少ないと思いますのでこちらもどうかお聴き逃しなく。

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