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第263回演奏会のご案内

今度の新響はショスタコーヴィチ祭り
 ショスタコーヴィチは20世紀の社会主義体制の中を生き抜いた大作曲家です。1906年サンクト・ペテルブルクに生まれ、1917年のロシア革命を経験。スターリンに寵愛され社会情勢に敏感に反応しつつ、独自の作品を発表しました。スターリン死後は共産党員となり、1975年に病気で亡くなるまで作曲活動を続けました。暗く心にしみる中にも爆発力と推進力がある作品が多く、現在も根強いファンが多くいます。今回のコンサートでは、ショスタコーヴィチの初期、中期、後期の作品から1曲ずつ選びました。


バレエ音楽『黄金時代』(1930年)
 初期の作品は前衛的な音楽が特徴で、西欧の革新的な技法や軽音楽の影響を受けていました。オペラおよびバレエ音楽は初期に書かれたものが多く、『黄金時代』もその一つです。
 ある資本主義国で開催されている工業博覧会「黄金時代」に、ソ連のサッカーチームが招待され地元の人々と交流するお話。西側の人々を表すのにフォックストロットやタンゴといった当時西側で流行していた音楽を用い、ソ連市民は行進曲や歌謡的な音楽を用いて描き分けています。プロパガンダ的な要素が強いですが、ショスタコーヴィチのユーモアが効いています。今回は序曲、アダージョ、ポルカ、踊りの4曲からなる組曲を演奏します。


交響曲第9番(1945年)
 スターリン独裁体制において「社会主義的リアリズム」が提唱され、中期の作品はこれに基づいた作品が目立ちます。第二次世界大戦中に書かれた戦争3部作の最後の作品ですが、7番や8番とは違い、短く室内楽的な作品です。このため、勝利を祝うベートーヴェンのような「第九」を期待していた当局から批判されることになりました。


交響曲第12番「1917年」(1961年)
 1953年にスターリンが死去し、ソ連は「雪解け」の時代が始まります。激しい弾圧は終わり、限定的ながら自由も得られました。ショスタコーヴィチは8年ぶりに交響曲の作曲に取り掛かり、交響曲第4番などの初演もようやく実現しました。
 交響曲第12番は「1917年」と標題がついています。1917年とはレーニンによる10月革命のことで、ソヴィエト政権は翌年3月に第一次世界大戦から離脱しました。元々レーニンを題材にした交響曲を構想していたのですが第二次世界大戦の勃発により計画がなくなり、20数年を経てソ連共産党大会で発表するために作曲されました。「体制に迎合して書かれた作品」として低く評価されることもありますが、そこはショスタコーヴィチ、しっかり聴きごたえのある作品です。
 政治や戦争と結び付けて捉えられてしまうショスタコーヴィチですが、このような言葉を残しています。「芸術の中心にあるのはいつまでも人間であり、人間の精神的世界であり、人間の理念、理想、志向である。」
 どうぞお楽しみに!(H.O.)

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