2005年3月維持会ニュースより


交響曲第二番には、コントラファゴットの出番ありませんから! 残念!!

岩城 慶太郎(ファゴット)

維持会員の皆様、こんにちは。ファゴットの岩城と申します。

ブラームスの「田園交響曲」と呼ばれることもある交響曲第2番は、1877年6月(44歳)、南オーストリアの山々に囲まれたヴェルター湖畔の村、ペルチャッハで作曲されました。この村は、美しい風景とおだやかな自然環境に満ちており、すばらしい創作の霊感を受けたブラームスは、美しい旋律がよどみなく流れ、柔和で温和であり、幸福感に満ちたこの曲を書きました。友人のビルロートはこの曲聴いて「すべてが、小波の立つ流れと、青い空と、太陽の光と、涼しい緑の木陰です。ペルチャッハはどんなにか美しい処に違いありません。」と叫んだそうです。作曲に10年以上の歳月がかけられた交響曲第1番とは対照的に、交響曲第2番は非常に短時間のうちに書き上げられています。

・・・ということは良く知られていますが、この「第2番」が、ブラームスの交響曲の中で唯一コントラファゴットが使われていない楽曲であることは、あまり知られていない事実かと思います。そこで、本日はブラームスの楽曲におけるコントラファゴットの使われ方について、少々ご紹介をさせていただこうと思います。
「そんなこと言われても、あまり興味が持てない」
「紹介されても、どうせ聞こえないので意味がない」
「第二番に使われていないコントラファゴットの話をされても困る」
「そもそもコントラファゴットって、何?」
という皆様の反応が手に取るように伝わって参りますが、どうかしばらくの間、お付き合い下さい。

〔コントラファゴットについて〕

木管の最低音域を担当する楽器です。音域はファゴットの1オクターブ下で、最低音は楽器の種類によって異なりますが、チューニングトーンの4オクターブ下の「ラ」の音です。(その音が楽曲で使われているところは見たことがありませんが・・・)

コントラファゴットが楽曲の中で目立つことはほとんどありませんが、例えばデュカス「魔法使いの弟子」の再現部の手前(ディズニーのファンタジアで、バラバラに砕かれたホウキが復活するシーン)や、ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」の冒頭部分、マーラーの交響曲第6番第1楽章の最後、など、ごく稀に重要なソロを持つ事もあります。
 やはり役割としては、管楽器の和音(それもフォルティッシモ)の一番下の音を支えたり、ティンパニやコントラバスとともにリズムを刻んだりということが、圧倒的に多い楽器です。

〔ブラームスの楽曲におけるコントラファゴットの使われ方〕

そんな脇役のコントラファゴットなのですが、ブラームスの楽曲においては(脇役なりに)大活躍します。「交響曲第1番」の終楽章の冒頭はコントラファゴットのソロから始まりますし、「交響曲第4番」の終楽章のトロンボーンの長いコラールはコントラファゴットが重要な響きを担当しています。「ハイドンの主題による変奏曲」の作曲段階においては、「チューバではなくコントラファゴットを使うこと」と、ブラームス本人が楽譜に書き記したことがあるほどです。

奏者にとっても、ブラームスの楽曲におけるコントラファゴットは難易度が高く、与えられる役割が大きいため、大変「吹き甲斐」があると言えます。

〔コントラファゴット「不遇の時代」〕

ところが、交響曲第2番にはコントラファゴットは採用されておらず、変わりにチューバがコントラファゴットの役割を負っています。
なんと!(と、それほど驚くことでもないかもしれませんが)これには年表上の傾向があるのです。
1873「ハイドンの主題による変奏曲」⇒コントラファゴット
1876「交響曲第1番」⇒コントラファゴット
1877「交響曲第2番」⇒チューバ
1880「悲劇的序曲」 ⇒チューバ
1880「大学祝典序曲」⇒チューバ・コントラファゴット
1883「交響曲第3番」⇒コントラファゴット
1885「交響曲第4番」⇒コントラファゴット
と、いうように、ブラームスが自らの楽曲にチューバを採用しているのは、1877年から1880年までの3年間だけなのです。一体、この3年間にどのような心境の変化があったのか、ブラームスに関する様々な文献をくまなく探したのですが、残念ながらわかりませんでした。

ファゴット吹きの私としては、「一度チューバに浮気したものの、やはりコントラファゴットが好きだったことに気がついた」ことを望んで止みません。

〔もし交響曲第2番にコントラファゴットがあったら・・・〕

「他の交響曲はコントラファゴットが使われているのだから、交響曲第2番のチューバの楽譜をコントラファゴットで吹いても良いのではないか?」学生時代に第2番を取り上げた際、チューバの団員が風邪で休みであることを良いことに、試してみたことがあります。

結果は・・・ダメでした。当たり前のことなのですが、全く合わないのです。コントラファゴットはオーケストラの響きを豊かにすることはできますが、チューバのように全体を包み込んだ奥行きを出すことはできません。

交響曲第2番はその随所に、まるでペルチャッハを取り囲む山々に響き渡るこだまのような、あるいはブラームス本人の創作の喜びを表すような、雄大なコラールが登場します。この響きを表現するには、やはりコントラファゴットではなく、チューバが適任なのです。

〔おわりに〕

やや無理矢理つなげてしまいましたが、交響曲第2番が「田園交響曲」と呼ばれる理由には、「美しい旋律」はもちろん、「響きの奥行きの深さ」があるのではないでしょうか。そして、その奥行きを成立させている要素のひとつが、実は最低音域のオーケストレーションにあるのだと私は思っております。

4月17日の演奏会では、皆様に交響曲第2番の「響きの奥行きの深さ」を感じて頂ける様、精一杯演奏させていただきます。皆様のご来場をお待ちしております。


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