第155回演奏会(1996年10月)維持会ニュースより


オール・ベートーヴェン・プロに向けて

新交響楽団運営委員長 滝澤 亮

 皆様にはいつも熱いご支援をいただきまして誠にありがとうございます。ご存じのように新交響楽団は今年創立40周年を迎えまして、各演奏会ごとにテーマを設けた企画を行って参りました。そして今回いよいよシリーズ最後になります。今回のテーマは「ベートーヴェン」ということで、すべてべートーヴェンの作品で構成いたしました。ベートーヴェンというとあまりに有名で、当たり前すぎるとか、ベルリン・フィルやウィーン・フィルではあるまいし、何で新響40周年の最後の演奏会に取り上げるのだろうか、という疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。そこで今回の意図について少々ご説明させていただきたいと思います。

1.ベートーヴェンとオーケストラ

 ベートーヴェンというとクラシックの中でもっとも有名な作曲家で、誰にとっても特別な存在であることは異論のないところだと思います。クラシック音楽の「バイブル」とも言われるように、演奏する側にとっても非常に重要なレパートリーです。昔からよくオーケストラの理想として、ベートーヴェンをすばらしく演奏できることであるとよく言われています。逆にベートーヴェンの演奏によって、そのオーケストラの総合的な実力をある程度計ることができます。今日マーラーやショスタコーヴィッチの演奏が盛んに行われておりますが、その基本(もちろん作曲者もそうであった)にはベートーヴェンがあり、その時一回だけでなく、どんな曲を演奏しても、いつもすばらしい演奏ができる為には、その根底にベートーヴェンをすばらしく演奏できる実力が必要となるのです。その実力とは、ただ単に技術が優れ、アンサンブルが良いということではありません。ベートーヴェンにおいてはそれもたいへん難しいのですが、それだけではお客さんに真の感動は伝わりません。音楽は情熱、愛、精神、知性、技術、アンサンブル、感性、人間性すべてが総合的に関わっています。そしてそれらすべてがバランス良く高いレベルで備わっていないと、すばらしい演奏はできないのです。それは他の作曲家の場合でも同じことなのですが、とくにベートーヴェンではそれが演奏の善し悪しに顕著に現れるというわけです。したがって今回のようにすべてベートーヴェンの曲を取り上げるということは、我々団員にとっては非常に挑戦的なことなのです。

2.新響とベートーヴェン

 そういうわけで新響も節目節目でベートーヴェンを演奏してきました。古くは第1回演奏会は、交響曲第5番「運命」で始まりました。そして10周年には4回にわけてベートーヴェン・チクルスで全曲を、第50回、第100回演奏会では交響曲第9番「合唱付き」、30周年では「運命」をやりました。最近では昨年10月に第150回演奏会に交響曲第3番「英雄」を取り上げましたので、みなさんの記憶に新しいことと思います。これらは節目節目で取り上げてきたのは、何もただの偶然ではなく、オーケストラの実力を自分たちで計るといった試金石であると同時に、今後どのようにオーケストラを発展させるか、次の目標をどこに持つかといった問題提起の為でもあります。実際に新響は、前述のベートーヴェン演奏のみならず、20周年の「日本の交響作品展」も含め、節目節目で飛躍的に発展してきたことはご周知の通りです。

3.原田先生と新響「中期計画」

 1989年に音楽監督の芥川先生が亡くなられ、その年の10月に原田先生に初めて指揮をお願いしました。このときのプログラムは、ベートーヴェンの交響曲第8番、R.シュトラウス「死と変容」、ドボルザークのチェロ協奏曲で、私たちは原田先生の素晴らしさ、新しい出会いに喜びを感じました。そしてその後何回か先生とお付き合いを重ねるうちに、原田先生を新響の常任指揮者にお願いしようということになりました。双方の気持ちが一致し、まったく何の問題もないように思われました。ところが実際に手続きを進めていくううちに、マネージメント側との問題が若干あり、残念ながらこの案は実現いたしませんでした。しかし当時の新響は、山田先生も亡くなられてしまい、やはり核となる指揮者が必要だと考えていました。そこで新響の活動の基本となる中期計画の中で、原田先生を「常任的存在」ということでお願いして活動を展開することになりました。外部に対して特に肩書きはありませんが、内部的にはそういう位置づけになっております。その中期計画の目標とは、「40周年までにベートーヴェンと本当の意味ですばらしい演奏(技術のみでなく、愛の伝わる演奏)をできるようにしよう」というものです。そしてそのために原田先生を中心にベートーヴェンを中心とした古典派の演奏を積み重ね、40周年の最後に「オール・ベートーヴェン・プログラム」に挑戦し、自分たちの実力を見極め、次のステップにつなげようということなのです。従ってこの7年間で第1番を除くすべてのベートーヴェンの交響曲や序曲、ベートーヴェン以外の古典派、モーツァルトの交響曲等を多く取り上げてきたわけです。

4.新響、40周年以降

 40周年までは以上のような中期計画で進んで参りました。今後の活動については現在話し合いの途中ですが、今回を含む今年1年間の演奏会の結果を土台にし、ステップアップするということが重要だと考えております。もちろん「邦人作品」等については今後も継続するのは言うまでもありませんが、演奏についてはもっと「表現力をもったオーケストラ」を目指すことになると思います。そのためにレパートリーの拡大、例えばドイツロマン派やフランスもの、いままであまり取り上げていない作曲家、オペラ・劇音楽の演奏会形式といったプログラミングを考えると同時に、普段の練習方法の見直しや新しい指揮者、音楽家との出会いなども考えております。

 皆様も「新響」に対していろいろお考えがあるかと思います。どうぞご自分のオーケストラとしてご意見、ご希望をどしどしお寄せください。

 それでは演奏会場でお会いできるのを楽しみにしております。
 今後ともよろしくお願い申し上げます。


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