第一回定期演奏会(1957.11.21)のパンフレットより


みなさん有難う!

芥川也寸志  

 この演奏会を聴きに来て下さった方々、本当に有難うございました。みなさんの温かい声援や、批判や、励ましによって、いま産声をあげようとしているこのオーケストラは、限りない成長を続けることが出来るのです。本当によく聴きに来て下さいました。
 このオーケストラを構成しているメンバーは、みんな職場や学校で、働いたり学んだりしている人たちばかりです。毎日の生活を、オーケストラに加わって演奏することによって少しでも楽しく、明るく、美しくしようとしている人たちばかりです。もとよりうまく弾いたり、上手に吹いたりすることはできないのですが、それでも一生懸命に演奏すれば、その中から必ず価値のあるものを生み出すことが出来るという自覚を持っている人たちばかりです。彼等は技術の大切なことを痛切に識ってはいるけれども、如何にうまくとも無感動な演奏のあることも、同時に識っています。ですからいつでも一生懸命です。一生懸命すぎるくらい一生懸命です。私たちのオーケストラには入団試験はありません。どなたでもオーケストラを楽しみたいと思う方はすぐにお入りになれます。つまりまったく無制限なわけですが、これこそ私たちにとって一番大切な原則だと思っています。ベートーベンの交響曲に五本も六本もフルートは不必要ですし、技術全くもっていない方はすぐみんなと一緒に合奏を楽しむわけにはゆきませんが、その時には第二軍を、必要とあらば第三軍を編成するつもりです。とにかく無制限主義であります。このようにしていくつかのオーケストラが生まれ、そしてやがては日本のどこの街にもいくつかのアマチュア交響楽団の演奏が聴かれるようになるというのが私たちの夢であり、またそのさきがけとしてのささやかなる自負の心もあるのです。私たちの演奏は決してうまくはありません。けれども、どこまでも向上してゆこうとするファイトと情熱はいつも燃やし続けてきましたし、それだけは誰にも恥じることはないと思っています。今日聴きに来て下さったすべての方々が、その私たちの気持を受けとめて下さったら、私たちはどれほどうれしく、またどれほど励まされることでしょう。私たちのオーケストラがこれから育ってゆく唯一の道は、みなさんによって見守られ、そして少しでも愛されるようになることなのですから今日聴きに来て下さった全部の方々に心からお礼申し上げます。

 みなさん有難う!
 よく聴きに来て下さいました。

脚注:1960年新響第二オーケストラ(現在の新日本交響楽団)、61年新響吹奏楽団(現在の新交響吹奏楽団)、62年に新響第三オーケストラ(現在の上野の森交響楽団)が誕生しました。東京労音から独立後、それぞれの活動を行っています。


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