第162回演奏会のご案内


7月の新響は、ワーグナーの「ニーベルングの指環」名場面集をお屈けします。この「指環」は一連の4つのオペラ(楽劇)からなり、上演に4晩かかるという音楽史上もっとも大規模な作品。洋の東西や時代をも超越する普遍的で根源的なその内容も比類がなく、音楽というジャンルを超えた西洋の舞台芸術すべての到達点といってもよいでしょう。それだけに上演には種々の困難が伴い、「ワルキューレの騎行」や「葬送」などが単独で演奏される機会はあっても、独立した管弦楽曲のような演奏になりがちで、「指環」という巨大なドラマの感動に触れる機会はまだなかなか身近にはありません。

飯守=新響=ワーグナー

新響は、創立40周年を迎えた一昨年、この「指環」を構成する第2作にあたる「ワルキューレ」から第1幕全曲を、飯守泰次郎の指揮のもと演奏会形式で上演しました。
すべての音がその場面の情景と密接にかかわり、時に歌詞には出てこない登場人物の真情をもオーケストラが表現しつつドラマを展開していくワーグナーの楽劇。そのひとつの幕を、オペラ初体験にもかかわらず一挙に上演することに挑戦したこの演奏会の衝撃は、いまなお鮮明です。この圧倒的な体験が、今回の「措環」ハイライトヘの原動力となりました。今回も指揮台に迎えるのはもちろん、93年の出会いから5年、6回目の共演となる飯守泰次郎。昨年より東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の常任指揮者にも就任、あふれる情熱と多彩なレパートリーで広く聴衆を魅了し続ける飯守の音楽は、人間を含む自然への共感に溢れ、聞く者の心の奥深くまで届いて精神の高揚をもたらします。
ヨーロッパの歌劇場で豊富な経験を持つ飯守の、西洋の歴史・文化・言語への深い理解に裏打ちされた妥協のない指導と、音楽を生んだ人間の内面への愛着と洞察、そして音楽そのものへの限りなく真摯で謙虚な姿勢に魅了されてきた私たちは、昨年彼を常任的存在として迎え、蜜月の陶酔から一歩進んで、飯守=新響ならではのかけがえのない何かを生み出す段階に入りつつあります。
この飯守の原点がワーグナーにあることは、自他ともに認めるところ。四半世紀にわたりワーグナー上演の本拠バイロイト祝祭劇場の助手を務める飯守は、作品の哲学的背景から数々の上演の現場や楽譜のすみずみまで知り尽くしています。しかも一方でワーグナーに対する飯守の姿勢は、西洋の歴史と文化全体から見たワーグナーの位置づけや、日本の聴衆の現状をふまえる客観性をも備えた幅広いもの。新響が、西洋音楽のひとつの到達点〜ワーグナーの楽劇に継続して取り組めるのも、飯守との出会いに恵まれたからにはかなりません。

飯守=新響ならではの本格的ハイライト

ワーグナー作品の中でも特に「指環」に絞った今回のハイライトでは、4晩にわたる作品の全体の雰囲気を味わっていただけるよう、飯守=新響ならではの本格的な演奏をお届けするために数々の準備を重ねました。名場面を選りすぐって抜粋のしかたも吟味。ソプラノとバリトンのソロもお招きし、本来の楽劇の楽器編成にこだわってハープも4本揃えました。
ドイツを中心に活躍中の小濱妙美は、昨年の新国立劇場の開場記念公演でワーグナー「ローエングリン」のエルザを歌うなど、いま波に乗るソプラノ。多田羅迪夫は、今回もお願いするヴォータン役を含めワーグナー他の経験も豊富で評価の高い、常に聴衆を魅了するバリトンです。
新響はこの最高の指揮者と最高のソリストを迎えて、すでにワーグナーに精通している方にも、まだあまりなじみのない方にも、長大な「指環」のエッセンスを凝縮して楽しんでいただけるような演奏を目指します。新たな段階に入りつつある飯守=新響とともに西洋文化のひとつの到達点を楽しむ夏の一夜、どうぞご期待ください。

新交響楽団プロフィル

 1956年創立。音楽監督・故芥川也寸志の指導のもとに旧ソ連演奏旅行、ストラヴィンスキー・バレエ三部作一挙上演、10年におよんだ日本の交響作品展(1976年にサントリー音楽賞を受賞)などの意欲的な活動を行ってきた。最近ではマーラーの交響曲全曲シリーズ(故山田一雄指揮)、ショスタコーヴィチ交響曲第4番日本初演、日本の交響作品展91、92(石井眞木指揮)などの演奏会、また93年9月にはベルリン芸術週間に参加して3邦人作品をフィルハーモニーで演奏するなど、積極的な活動を行っている。96年には創立40周年記念シリーズでワーグナー「ワルキューレ」の演奏会形式公演(飯守泰次郎指揮)、「日本の交響作品展'96」では1930〜40年代の知られざる作品を発掘するなど、各方面から注目を集めている。

第162回演奏会(1998年7月12日)ちらしより


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