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ブラームス:交響曲第4番ホ短調

志村 努 (トロンボーン)

誕生からシューマン夫妻との出会い
 ブラームスは1833年5月7日にハンブルクで生まれた。父はコントラバス奏者で、幼いブラームスの音楽的才能を見抜き、まず自らヴァイオリン、チェロを教え、次いでハンブルクの有名ピアノ教師につけた。この教師がさらにその師匠につかせ、と彼の才能を見抜いた人々によって、彼の音楽教育環境はどんどんアップグレードされていった。ピアノと同時に作曲も始めている。10代前半からピアニストとして演奏会を開き、また家計を助けるためにハンブルクの酒場でもピアノを弾いていたという。20歳の時にシューマン夫妻と出会い、その後押しにより音楽界にデビューを果たし、初期には歌曲、室内楽曲を中心に創作活動を進めていった。


交響曲第4番作曲まで
 交響曲第1番の作曲に20年以上かかった、というのは有名である。ブラームスは決して筆は遅くない。ブラームスの、崇拝するベートーヴェンに引けを取らない作品を、という強烈な思いが、20年超もかかった原因だと言われている。交響曲第1番が1876年に完成すると、ベートーヴェンの呪縛から解放されたかのように、一気に管弦楽作品の傑作群が生まれる。4曲の交響曲の他、管弦楽の代表作のほとんどがここからの10年間に作曲されている。その最後を飾るのが1885年に完成した交響曲第4番である。


作品と構成
 全体的に古風な雰囲気の感じられる曲だ。随所にブラームスらしい、情感あふれる表現が見られるものの、基調には荘厳で背筋の伸びたような立派さがある。


第1楽章 Allegro non troppo 快速で、だがやりすぎず。ホ短調、2/2拍子。
 いきなりヴァイオリンのオクターブの第1主題の旋律が半拍先行して始まり伴奏が後を追う。哀愁をおびた、いかにもブラームスらしい旋律である。主題は変形されながら進み、ホルンとチェロのユニゾンによる朗々たる第2主題が現れる。
 古典的なソナタ形式は提示部を繰り返すのが通例で、ブラームスも第1~3番の交響曲には第1楽章の提示部に繰り返し記号がある(実際の演奏では繰り返さない場合も多いが)。これに対して第4番は繰り返しがない。だが、展開部の始まりの8小節間は曲の冒頭と全く同じなので、提示部が繰り返されたのかと一瞬思ってしまうが、9小節目になると実は展開部に入っていたということがわかる仕掛けになっている。
 展開部の最後は一瞬小休止の気配を見せた後、忍び込むように再現部に入る。最終部のコーダに入ると第1主題が冒頭とは対照的にきっぱりとアクセント付きのffで奏され、そののち劇的に楽章を終える。


第2楽章 Andante moderato 歩く速度よりやや速めで。ホ長調、6/8拍子。
 冒頭にホ音で始まりホ音で終わるフリギア旋法の旋律がホルンと木管のユニゾンで提示される。調性としてはハ長調だ。と、これを受け継いで、最後の伸ばしの音のホ音を主音とするホ長調で同じ旋律が奏される。ホ音が伸ばされている間にハ長調の「ミ」からホ長調の「ド」に変わってしまうという、しりとりのようなトリックだ。この後は終始ホ長調でこの旋律が展開しながら曲が進んでいく。


第3楽章 Allegro giocoso 快速で、おどけて。ハ長調、2/4拍子。
 最初の18小節で3つの主題が次々と明るく元気よく提示される。ただし提示はあっという間に終わるので、要注意だ。以後はこれらが自由に展開されていく。この楽章しか出番のないトライアングルが大活躍するのも要注目。


第4楽章 Allegro energico e passionate 快速で力感をもって、情熱的に。ホ短調 – ホ長調 – ホ短調、3/4拍子 – 3/2拍子 – 3/4拍子。
 この曲の中でも最も古風で荘厳な楽章で、シャコンヌ風の変奏曲の形式をとっている。この楽章でトロンボーンが加わる。最初の8小節で主題が提示され、その後きっちり8小節単位で30の変奏が展開される。まずは理屈抜きで、変奏曲の名手ブラームスが繰り広げる、それぞれ全くキャラクターの違う、それでいて有機的に推移する変奏を堪能していただきたい。
 筆者なりに大きな区切りをつけると、第12変奏までが第1部、第13~15変奏が第2部で、この間はホ長調である。また第12~15変奏の間は3/2拍子で、1小節の長さがそれまでの倍になっている。第16~30変奏が第3部で、3/4拍子に戻る。第3部冒頭で主題の旋律が再現されるが、和音の進行や弦の動きが主題とはやや異なる。第30変奏の最後に4小節おまけがついたのちに終結部に入り、冒頭の主題が3度目の登場となる。この後は強奏が続き、力強く荘厳に曲を締めくくる。


初演:1885年10月25日 作曲者自身の指揮 マイニンゲン
楽器編成:ピッコロ(2番フルート持ち替え)、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、トライアングル、弦五部
参考文献:
さいとうみのる『世界の音楽家たち 第Ⅱ期 新古典派の完成者 ブラームス』汐文社 2006年
ひのまどか『ブラームス「人はみな草のごとく」』リブリオ出版 1985年
吉田秀和『ブラームスの音楽と生涯』音楽之友社 2000年
諸井誠『ブラームスの協奏曲と交響曲 作曲家・諸井誠の分析的研究』音楽之友社 2014年

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