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シュミット:交響曲第3番 イ長調

山口 夏海(ヴァイオリン)

 『交響曲第3番』は、オーストリアで活躍した作曲家、フランツ・シュミットによって書かれた曲です。シュミット(1874 ‐1939)は、オーストリア=ハンガリー帝国プレスブルク(現スロヴァキアの首都ブラチスラヴァ)出身の作曲家で、4つの交響曲やオペラ等を書いています。この時代、新ウィーン楽派のスタイルが流行していました。しかし、彼はシューベルト、ブラームス、ブルックナー等の後期ロマン派の要素を多く取り入れ、伝統を引き継いでいます。

 『交響曲第3番』は、彼がオーストリア代表として、第一次世界大戦終結から10年後の1928年に開催された「国際シューベルト作曲コンクール1928」に応募するために作曲した曲です。彼は、スウェーデンのクルト・アッテルベリ(1887‐1974)の『交響曲第6番』に次いで2位になっています。この曲は、コンクール用に作曲されたため、巨大編成の曲が多いシュミットには珍しいシューベルト時代の小さい編成で書かれています。
古典的な4楽章で構成されています。

・第1楽章Allegro molto moderato
・第2楽章Adagio
・第3楽章Scherzo. Allegro vivace—Trio. Molto più tranquillo
・第4楽章Lento—Allegro vivace

 この曲は、長調で書かれているのにもかかわらず、短調に多くの時間を費やしています。加え
て、穏やかな曲調の中でも、終わりの見えない転調が生み出す不安感は、シューベルトの転調技法の斬新さを取り入れていると考えられます。転調技法は、第1・2楽章で多く用いられています。

 第1楽章は、フルートの主題から始まり、その主題が次の調や楽器に巧みに繋がっていきます。小さい編成で書かれていますが、彼のオルガニストとしての腕前を活かした、オルガンを思わせる響きが特徴です。

 第2楽章では、それがさらに顕著になっており、彼独特のハーモニーの美しさが感じられます。

 第3楽章のスケルツォでは、第2楽章の主題が変形して登場しています。強弱や曲風の変化も激しく、シュミットの遊び心が詰まっています。

 第4楽章は一変し序曲から始まります。ハーモニーが折り重なっていく美しさが際立っています。その後は、6/8拍子のAllegro vivaceに展開していきます。様々なメロディが掛け合いをしているところが魅力です。

楽器編成:フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部

初演:1928年12月2日(ウィーン楽友協会)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、フランツ・シャルク指揮

参考文献:(いずれも最終閲覧日:2021年3月18日)
Clements, Andrew. "Schmidt: Symphony No 3; Chaconne." The Guardian, 15 July 2010, www.theguardian.com/music/2010/jul/15/schmidt-symphony-3-chaconne.
Franz Schmidt: Symphony No. 3 in A major for orchestra. Universal Edition, www.universaledition.com/franz-schmidt-647/works/3-symphonie-544.
大阪交響楽団「2013年度 定期演奏会 曲目解説」2013年2月28日http://sym.jp/publics/index/104/detail=1/c_id=231/page231=2

指揮者:寺岡清高コメント
 第二次大戦後、戦時中ナチスに協力したと誤解されたこと(今日では名誉は回復されています)、そして何より行き着く所まで行ってしまった感のある複雑な和声と、演奏自体が非常に難しいせいで、シュミットを実演で聴く機会はまだまだ多くありません。しかしその音楽は、ウィーンゆかりの作曲家達、例えばシューベルトの歌心、ブラームスの作曲書法、師であるブルックナーのオルガンサウンドと宗教的敬虔さに満ちています。そこに加えて、ウィーン宮廷歌劇場芸術監督マーラーの下で積んだチェロ奏者としての劇場体験と、マーラーの作品を含む同時代作品の演奏経験まで兼ね備えたシュミットの音楽は、正にウィーンロマン派音楽の最終形態とも呼べるもので、一度はまるとなかなか抜け出せない中毒性を持っています。今回採り上げる交響曲第3番は、シューベルト時代の小さい編成で書かれていますが、しっかり「シュミットのオルガンの音」がします。私のライフワーク作曲家の一人でもあるシュミットの魅力をまだご存知でない方、この機会に是非シュミットサウンドを全身に思う存分浴びて下さい

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