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エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番・第2番

横田 尚子(オーボエ)

■エネスコの生涯
 ジョルジュ・エネスコの名は、作曲家としてよりもヴァイオリンの名手としてよく知られているだろう。ヴァイオリンの教授として、メニューインなど多くの名手達を輩出したことでも有名である。

 1881年8月7日(19日の説もあり)、ルーマニア北東部のドロホイ県(現ボトシャニ県)リヴェニ・ヴルナヴにて、父コスタケ、母マリアの第8子として誕生。12人生まれたうちジョルジュ・エネスコだけが、19世紀にルーマニアの村々を襲った疫病から生き延びたといわれている。
 エネスコ一族は曾祖母、祖父、父母と、みな音楽的才能を持っており、中でも父は素晴らしいテノールの持ち主でヴァイオリンも弾いた。また、母は類まれなほどの澄んだ声を持ち、ギターの弾き語りをすることもしばしばだった。そんな音楽家の血筋の中、エネスコは3~4歳で異常なまでの才能を発揮し、7歳になった1888年には、ウィーン音楽院へ入学し、「ルーマニアの小さなモーツァルト」と呼ばれるようになっていた。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をわずか11歳で堂々と演奏し、「小さなヴァイオリニストとコンサートマスターとしての契約を結びたい」とシュヴェリン劇場専属オーケストラから提案があったことからも、ヴァイオリニストとしての成功を証明している。

 その後1895年、精力的な父に付き添われたエネスコは、ウィーン・フィルのコンサートマスターであり作曲家でもあったヘルメスベルガーから、当時パリ音楽院の作曲科主任教授だったマスネに宛てられた推薦状を携え、パリ音楽院への入学を果たした。
 エネスコはウィーンにいる頃から作曲を始めていた。最初は小品(全てヴァイオリンとピアノのためのもの)が中心だったが、やがて更に大きな作品の製作に取り組んでいき、1897年に完成した『ルーマニア詩曲』はコロンヌ指揮でパリにて初演され大成功を収めた。
 パリ音楽院では、生涯の友となる学友、モーリス・ラヴェル、ロジェ・デュカス、フロラン・シュミット、などと知り合い、作曲家としての創作意欲も刺激されていた。もちろん世界で活躍する間も祖国とは絶えず繋がりを持っており、『ルーマニア詩曲』を作曲した後も1900年から1920年にかけてルーマニア楽派の作品を多く手掛け、ルーマニア人作曲家としての知名度を世界に知らしめた。

■二つの狂詩曲(ラプソディー)
 ルーマニア狂詩曲は、エネスコ作品の中で最も広く知られている曲であろう。
これらは第1番(1901年)、第2番(1902年)と続けて作曲され、1903年2月23日、ルーマニア・ブカレストのアテネ音楽堂にてエネスコ自身の指揮で2曲同時に初演されている。
この時、最初に第2番、続けて第1番という順番で演奏したことから、この形式が演奏する時の定番となった。
 まず演奏される第2番は、エネスコの故郷モルドヴァのバラードが主題に置かれ、農村的かつ内面的な傾向が伺える。弦のユニゾンによる開始はエネスコのお気に入りで、同様の手法が傑作・弦楽八重奏曲(1900年)、第一管弦楽組曲(1903年)でも使用されている。この弦のフリギア旋法の後、バラードが3回繰り返され、その後に活躍するのが、「田園の羊飼い達」の楽器である。バグパイプを思わせるオーボエとファゴット、パンの笛を模するフルート。その対話は幻想交響曲の第3楽章を想像させる。最後にすべてのオーケストラが静寂に包まれる中、クラリネットと弦の室内楽を伴奏にしたヴィオラのソロが、まるで馬車に乗った農民楽士が通過するかのように演奏する。その後オーケストラが馬車の捲き起こす風のように一瞬通りすぎ、第1番への予告となる。

 そして始まる第1番。まるで即興のように聴こえる出だしの管楽器はハープのトレモロによって伴奏される。バラード風のルバートが多い旋律がクラリネットとオーボエによって演奏され、やがて多くの楽器が加わって厚みを増していく。続いて8分の6拍子の舞曲調となり、ジプシー風の旋律が奏でられる。その後東洋的楽想が続き、4分の2拍子になって徐々に活気を増していく。やがてこのあたりからルーマニア民族舞曲ホラの様式が組み込まれ、フルートから様々な木管楽器に受け継がれて華やかに進む。中にはアラビア風な曲調も挿入され、熱狂的な踊りとなっていく。クライマックスに達したところで音楽が突然やみ、尻切れトンボのようになると、ひなびた東洋風旋律が木管によってカノン風に歌われる。そして前の速いリズムに戻り結尾となる。

参考文献
『ジョルジェ・エネスク 写真でたどるその生涯と作品』/ヴィオレル・コズマ著/ペトレ・ストレイヤン監修(ショパン社)
『エネスコ回想録』ベルナール・ガヴォティ編著(白水社)
『最新名曲解説全集6 管弦楽曲Ⅲ』(音楽之友社)
『ミニチュアスコア』(日本楽譜出版社)
※曲目解説については、一部曽我大介先生にご助言いただきました。

初演:1903年2月23日
エネスコ指揮 アテネ音楽堂
楽器編成:ピッコロ(3番フルート持ち替え)、フルート3、オーボエ2、コールアングレ、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、コルネット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、小太鼓、シンバル、ハープ2、弦5部
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