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ショスタコーヴィチ:交響曲第4番

桑形和宏(打楽器)

ショスタコーヴィチとその作品
 1906年9月25日に生まれ、1975年8月9日に亡くなったロシア~ソ連の作曲家。第1回ショパンコンクールに入賞するなど、ピアノも上手だった。それぞれ15曲ずつの交響曲と弦楽四重奏曲を始めとして、歌劇、交響詩、協奏曲、カンタータ、映画音楽など、あらゆるジャンルの作品を遺している。作品1は、オーケストラのための「スケルツォ第1番嬰へ短調」(1919)、最後の作品は、「ビオラ・ソナタ作品147」(1975)である。
 現在、ショスタコーヴィチの諸作品は、演奏会のレパートリーとして完全に定着している。「大作曲家」としての評価が固まったと言ってよいだろう。CDは多数発売されており、インターネットではいろいろな情報を検索することができる。
 また、死後出版された書籍が物議をかもしたり、その真贋論争が起こったりするなど、音楽以外の面でも話題が多い。

「交響曲第4番」※について ※以下「4番」と表記
 まず、作曲の経過や初演などについて、「通説」を簡単に整理してみたい。

1935年~36年にかけて作曲。同年12月(4月とする文献あり)のレニングラードでの初演に向けてリハーサルが行われていたが、突如作曲者の意向で初演は中止された。はっきりとした理由は定かではな いが、ソ連当局からの批判や粛清を恐れたためと言われている。
 その後25年間、「4番」は謎に包まれた作品であったが、パート譜からスコアを作成して、1961年(60年とする文献あり)12月30日、モスクワでコンドラシン指揮のモスクワ・フィルによって初演された。ちなみに、1961年には交響曲第12番が完成されている。

 初演の中止にあたっては、そのこと自体が呼び起こすであろう疑惑、演奏会のドタキャンによって生じる社会的信用の下落など、様々な懸案事項を勘案したうえで、ぎりぎりの判断を下したのであろう。超大物や有力な組織からの助言やフォローがあったとも想像することができる。
 「ソ連」の作曲家ショスタコーヴィチの作品は、政治・社会情勢とリンクして語られてしまうことが多い。交響曲第10番でも、同様の傾向が見られる。
 しかしながら、「4番」は表題がない「絶対音楽」であることを忘れてはならない。先入観をなくして「ショスタコーヴィチの音楽」に耳を傾けることも大切であろう。

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どんな交響曲?
 「4番」の特徴を、私見ながら5点掲げてみたい。
①大編成
 ウィキペディアの「巨大編成の作品」にも登場するほどの大編成であり(次回の定期演奏会で演奏す るマーラーの交響曲第6番も載っています)、作曲者指定の演奏者人数を合計すると、最少でも113人に達する。ステージ上のオーケストラだけで見れば、「4番」は、ショスタコーヴィチの作品中、最も編成の大きい曲であろう。使われていない楽器は、ピアノくらいのものである。盛り上がると大音響で迫力充分、室内楽的な個所では繊細さが際立っている。各楽器のソリスティックな扱いも目立っており、長いソロを受け持つ奏者も多い。
②盛り沢山な内容
 手持ちのあらゆる素材を楽譜にしたのではないかと思われるくらい、様々なエキスが詰まっている。そのために統一感に欠けるとの指摘もあるが、逆に、これだけの内容をよく1曲にまとめ得たものと思う。消化すべきことが多いうえに、全曲に渡って緊張感が張り詰めているため、演奏していると、実際の演奏時間(約60分)よりも長い時間が経過しているように感じる。また、練習を行うたびに新しい発見があり、心踊らされている。
③マーラーの影響
 ほとんどすべての解説で語られていることだが、曲の素材、雰囲気、楽器編成(オーケストレーション)等において、マーラーの影響を見過ごすことはできない。実際に、マーラーの交響曲第1番とそっくりな動機や旋律が登場する。
④出発点
 「4番」以後の作品、例えば交響曲第5番、8番、10番、13番、15番、チェロ協奏曲第2番、祝典序曲などに、「4番」からの引用と思われる旋律や書法が見られる。また、透明で叙情的な雰囲気、最高潮に向けての盛り上がり方などには、以後のショスタコーヴィチ作品の原型を聴き取ることができる。新たな出発点ともなっている曲なのだ。
⑤全楽章弱音で終わる
 ショスタコーヴィチの交響曲中、全楽章弱音で終わるのは「4番」のみである。この他にも、3楽章構成であることが特徴と言えなくもないが、伝統的な4楽章構成の交響曲は、15曲中7曲しかない。

各楽章について
第1楽章

 自由な形式だが、主題の展開や再現が聴かれるため、複雑なソナタ形式とも考えられる。大迫力のプ レストの部分を始めとして、各パートの演奏難易度は高い。最後は、これまでのことを回想しながら、深く息を吐き出すようにして終わる。
第2楽章
 間奏曲風の楽章。目まぐるしく展開する長大な両端楽章とは対照的に、演奏時間は短く、最初から終 わりまで拍子(3/8)とテンポが全く変わらない。音楽は流れるようにたんたんと進んで行き、あっけなく終わる。
第3楽章
 組曲風の楽章。葬送行進曲風の部分、映画音楽風の部分、舞曲風の部分、テンポは速いが耽美的な部分、コラール風の部分などが次々と登場する。終結部では、チェレスタが満を持して久々に登場。天国 的な美しさに彩りを添えている。

 最後に少し寄り道をさせていただき、新響による日本初演時の個人的思い出をひとつ。第3楽章最後のクライマックスであるコラールの直前、ティンパニ2名と大太鼓が、9小節間の大クレッシェンドをして盛り上がりのきっかけを作りますが、ある日の練習時、芥川先生はこの部分を「5番のフィナーレの最後のようにやるよう」指示されました。本番でその通りにできたかどうか、芥川先生に伺い忘れたことが今では悔やまれます。

主要参考文献
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
「巨大編成の作品」
「交響曲第4番(ショスタコーヴィチ)」
『作曲家別名曲解説ライブラリー⑮/ショスタコーヴィチ』
音楽之友社編(音楽之友社1993)
『ショスタコーヴィチ』ホフマン著
清水正和・振津郁江共訳(音楽之友社昭和57年)

初  演:1961年12月30日K.コンドラシン指揮モスクワ・フィル
日本初演:1986年7月20日芥川也寸志指揮新交響楽団 於新宿文化センター
楽器編成:フルート4、ピッコロ2、オーボエ4(4番はコールアングレ持ち替え)、クラリネット4、Esクラリネット、バスクラリネット、ファゴット3、コントラファゴット、ホルン8、トランペット4、トロンボーン3、テューバ2、ティンパニ2名、大太鼓、小太鼓、シンバル2名、木琴、鉄琴、ドラ、トライアングル、カスタネット、ウッドブロック、ハープ2、チェレスタ、弦5部
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