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新任首席奏者に聞く-その3

宮田 祐実(コントラバス)

◆はじめに
こんにちは。コントラバス首席の宮田と申します。シリーズ3回目となる「新任首席に聞く」の掉尾を飾っていただけないか、と『維持会ニュース』編集人の松下さんから依頼され、やや緊張しながら引き受けました。これまでのお二人(Fg藤原さん、Fl吉田さん)のような面白い文章にはならないかと思いますがお許しください。


◆まずは自己紹介をします。
・東京都在住、27歳女性、1Kの部屋で一人暮らし(ペットはサボテン)
・育ちは千葉県北西部。中高は都内の某女子校、大学(+院)は都内の某国立大学。
・実家は松戸市なので頻繁に帰省します。
・仕事はバイオ系研究開発職。新卒入社して4年目になります。そろそろ新規テーマ提案を、と圧をかけられ悩んでいます。
・新響に入団したのは2018年8月、首席を拝命したのは2019年12月です。
・好きな作曲家はマーラー、チャイコフスキーなど。わりとなんでも好きになります。マーラーの交響曲は5,7,9しか演奏したことがありませんがいつか全部やりたいです。
・音楽以外の趣味は読書(小説)、パンダ。好きな作家は小川洋子。国内のパンダは最近生まれた2頭以外は見分けられます。


◆コントラバスという楽器について
あまり脚光を浴びる機会も多くないので、この場を借りて少し楽器の紹介をさせてください。
コントラバスはオーケストラの弦楽器の中で一番多様性に富む楽器だと思います。楽器の個体差も大きいし、活躍するジャンルも幅広いです。オーケストラにおいては、曲の土台、骨格となるような音を出していることが多いです。
楽器の個体差について少し詳しくお話しすると、そもそも4弦(上からG/D/A/E)と5弦(G/D/A/E/HもしくはC)の楽器の両方ともが一般的に使われています(ソロチューニングは2度高くなります。4弦楽器でEより低い音を出したい時のためにE線を伸ばすことを可能にするCマシーンというものもあります)。実は弦の数だけではなく、楽器の大きさ自体も異なります。国内においては一般的に5弦の楽器がいわゆる「フルサイズ」で、4弦の楽器はほとんどが「4分の3サイズ」という若干小さ目サイズです。楽器の重さも違っていて、4弦楽器と5弦楽器の持ち運びやすさは全く異なります。また、容積の違いから、生まれる響きも異なってきます。新響で所有している楽器はほとんどが5弦で、重厚な響きを作り出すのに一役買っています。今回の演奏会に参加するメンバーも6人全員が5弦を弾いておりますので注目してみてください。また、楽器の裏が平らになっているものと丸みを帯びているもの、なで肩の曲率、楽器の厚み、装飾など、よく見るといろいろと個体によって異なる特徴があって面白いです。
弓の持ち方の種類も「ジャーマン」と「フレンチ」があり、ざっくり言うと、下から持つのがジャーマン、上から持つのがフレンチです。国内では圧倒的にジャーマンの方が多いですが、最近フレンチの人が増えているような気がします。やや気取った感じがして、敬遠した目で見てしまいますが(笑)。ジャーマンの中でも鉛筆を持つように弓をしっかりとホールドする「チェコ式」と、親指を離して持つ「ウィーン式」の持ち方があり、こちらはウィーンの方が少ない気がします。私は大学の時に師事した先生の先生がルートヴィヒ・シュトライヒャー(ウィーンの超有名なコントラバス奏者・指導者でその名を冠した教本が広く流通している)だったため、ウィーン式の持ち方をしています。


~よくある質問~


① 楽器の重量は何kgくらいですか?
→個体差はありますが約10kgです。


②ウッドベースですか?
→ジャズに使えばウッドベースということになります。


③運搬はどうしているんですか?
→新響では団器を毎回の練習にトラックで持ってきてくれます。大変ありがたいです。団の楽器を所有していて毎回持ってきてくれるアマチュアのオケはなかなかありません。新響以外のオケの練習に行くときは、個人所有の楽器に専用の車輪をつけて転がしていきますが、特に夏場などはそれなりの重労働です。


~コントラバスのここがすごい~


改めて、という感じかもしれませんが、奏者目線からコントラバスの魅力をご紹介したいと思います。まずは振動です。楽器体験で小学生に楽器を触ってもらいながら弾いたりすると、かならず「ぶるぶるする!」と驚かれます。出てくる音も「振動」という感じがします。とにかく楽器全体(と一緒に体も)が鳴っている感覚、それが私の思うコントラバスを弾くことの最大の魅力です。それから、ピチカートの音の豊かさ。弦分奏などでバイオリンの人が「ピチカートの響きが薄い」と言われることがよくありますが、コントラバスはよく響くピチカートを出すことが比較的容易にできます。また、一般的に思われているよりも非常に多彩な音を出すことができます。Black Bass Quintetというコントラバスアンサンブルの団体があり、彼らの演奏を聴くとコントラバスのイメージがガラッと変わるかもしれません。(動画:https://www.youtube.com/watch?v=ZQZ4JvCoSlE)
でもやはりオーケストラにおけるコントラバスの魅力は、音楽の土台を作っていることだと思います。和音でいえば一番重要なのは一番下の音です。コントラバスが動かないと曲が動かない、コントラバスの音程が悪いと全部悪く聞こえてしまう、目立たないながらも責任は重大です。その裏返しで、私たちが上手にお膳立てをすればオケは意のまま、というような側面もあります。その楽しさと難しさを感じながら日々練習を重ねています。


◆なぜコントラバスを?
中高の部活動として始めました。はじめは手芸部に入るつもりだったのですが、新入生歓迎演奏会で管弦楽部の演奏を聴いて、超かっこいい!と思い入部しました。もともとピアノを習っていたり、小学校でブラスバンドに所属していたり(打楽器でした)しましたが、もっと楽しそうなものを見つけてしまった気持ちでした。はじめはバイオリンやフルートなどの花形楽器を希望しましたが、経験者が多くて遠慮していたところをコントラバスの先輩に拾ってもらいました。当時の身長は140cmに満たないくらいだったので、よくもその選択をしたなあと今になって思います(今は160cmあります)。
中高の部活動は、楽器の数や講堂の広さといった問題から独自の形態に進化を遂げており、独特な楽器の配置(なぜかコントラバスの前にクラリネットがいる)、交響曲1曲暗譜など、今思うと不思議なところでした。指揮者も学生で、外部のコーチには年に数回見ていただくだけです。でも、自分たちで音楽を作り上げる楽しさを存分に味わうことができました。また、現在プロのコントラバス奏者として活動されている永田由貴さん(前述のBlack Bass Quintetのメンバーでもあります)がこの部活の卒業生で(当時は芸大生)、コーチとして教えに来ていただいていました。永田さんのレッスンはとにかく楽しくて、いつもにこにこしていらっしゃって、コントラバスって楽しいよね!と全身で語っているような、そんな雰囲気をよく覚えています。とにかく楽しい部活でした。
大学のオーケストラに入ったのが私にとって一つの転機でした。中高の部活もそれなりに一生懸命打ち込んでいたのですが、やはり大学生の音楽はレベルが違いました。そもそもそのオーケストラに入りたくて受験勉強を頑張った面もあるので、どのくらいのレベルであるかは知っていたのですが、やはり入ってみると部員の熱量が中高の比ではありませんでした。触発されるように私も猛然と楽器を練習しはじめて、ようやく「コントラバスが弾けます」的なレベルになりました。第100回定期演奏会でマーラーの交響曲第5番を演奏したときはパートリーダーとして悪戦苦闘しながらもやり遂げたという感覚がありました。自分の地元(松戸市・森のホール21)での演奏会企画も得難い経験でした。
去りがたい気持ちを残しつつ大学オケを去った後はいくつかのオケに気の赴くままに参加していましたが、縁あって何度かエキストラとして新響の演奏会に参加させていただき、演奏のエネルギー、プログラムの多彩さ、団員の良い意味でのまじめさ、楽器を運搬してくれるありがたさなど総合的に魅力を感じて入団しました。今は新響をメインとして活動しつつ、余力があるときは他のオーケストラにも参加しています。


◆先生について
中高ではほとんどきちんとした指導者につかずに先輩から教わり、ときどきコーチに教えていただく方式でしたが、大学のオケでは先生を紹介してもらえたので、個人レッスンに通い始めました。東大オケでは長年にわたりお世話になっていた檜山薫先生という方がいらっしゃるのですが(コントラバスの基礎練習本としてどこの楽器屋さんにも並んでいる『HIYAMA NOTE』の著者でいらっしゃいます)、私が入団した時すでに檜山先生はお亡くなりで、田中洪至先生を紹介してもらいました。田中先生は東フィルの首席を務められた後ウィーンで活躍された方で、前述のとおりルートヴィヒ・シュトライヒャーに師事していたので、私はシュトライヒャーの孫弟子ということになります。田中先生には楽器の持ち方から教えなおしていただき、基礎的なことをしっかりと習いました。次第にソロの曲にも挑戦するようになりましたが、コントラバスのソロの曲というのは基本的にハイポジションを駆使したものが多くなります。要求されるテクニックや身体能力がオケとはかなり異なっており、私には結構きついなあと思っていました。社会人になったのを機に、レッスンにはいかなくなってしまいましたが、ときどきソロの譜面を引っ張り出して弾いてみるのは楽しいです。
新響では、読響で長く首席をされており現在は東京音大で教えていらっしゃる星秀樹先生にお世話になっています。演奏会ごとに2回実施するパート練習の片方を見ていただくのが通例ですが、なんとこの前は「今日時間あるから行きますよ」と、もう片方のパート練習の日にも突然いらっしゃって指導していただきました。そこまで気にかけていただいているとは正直思っていなかったので、驚くと同時に嬉しくもあり、期待に応えなければと思いました。


◆健康って大事だな
いきなり話が変わって恐縮です。最近つくづく思うのが健康って大事だなということです。ひとつにはコロナのこと、もうひとつには五十肩をはじめとする個人的な健康事由です。
コロナの感染が拡大し、多くのオーケストラが少なからぬ影響を受けている中、新響も活動停止を余儀なくされた期間があり、現在も練習時間を短縮しながら活動しています。密を避けるために大編成の曲はできず、プログラムにも影響が出ています。休団を続けているメンバーもいます。早く安心して自由な活動が再開できるようになってほしいものです。
コロナとは無関係に、今年3月に右肩に五十肩(またの名を四十肩、正式には肩関節周囲炎)を発症しました。27歳ですので冗談じゃないと思って肩専門医のいる病院でMRIの画像まで撮ってもらったのですが、水が溜まっている、つまり炎症、つまり本当に五十肩ですとのことでした。発症期間は楽器を弾く動作がとても辛くて、4月の演奏会には参加できないし、その後も一生楽器を弾けないのではないかと思って絶望しました。診断を受けてから、演奏会に参加できなくなった場合のことを考えて、首席の皆さんやパートの皆さんに相談したのですが、温かいお言葉をいただいたり、おすすめの医院を教えていただいたり、理学療法士の団員からリハビリ方法を教えてもらうなど、本当に助けられました。幸いにも数週間で自然治癒し、4月の演奏会にも参加できました。今に至るまで再発はなく、楽器を弾くことができています。今回の五十肩を通じて痛感したのは、いつどんな理由で突然楽器が弾けなくなるかもわからないなということと、新響には頼れる団員がたくさんいるということ(と、五十肩経験者は意外といるのだなということ)でした。楽器が弾ける体であるうちはその幸せを行使すること、長く楽器が弾けるように健康に気を配ること。若いくせにと笑われるかもしれませんが、健康って大事です。これからも体を大切にしていきたいと思います。


◆ダイバーシティ&インクルージョン
また話が変わって恐縮です。最近よく聞く言葉でダイバーシティ&インクルージョンというのがあります。多様性を認め合い受け入れること、といったような意味合いで、会社でもこの理念のもと「女性管理職を3割に」とか言われたりします。
世の中の流れに従うように、女性のコントラバス奏者も増えてきています。私自身27年しか生きていないので伝聞によるところが多いですが、昔は女性奏者はかなり少なかったそうです。現在でも国内外で著名な演奏家は全員男性ですが、近年はプロ・アマともに女性演奏家が増えてきています。またしてもコントラバスアンサンブルの紹介になりますが、女性コントラバス奏者のカルテットla la la camarade というのがあります。らららクラシックのコントラバス特集に出演した4人の女性奏者(永田さんを含む)が番組をきっかけに結成した団体で、女性は体格的に不利であることを忘れさせてくれる素晴らしいカルテットです。
私は自分が首席に選ばれた意味がよくわかっていないのですが(聞くのは何となく怖いし)、ひとつにはこういったダイバーシティの流れがあるのかな、と自分なりに解釈しています。先にこのシリーズに寄稿された新任首席の藤原さん、吉田さんも若手女性ですし、多様な立場の意見を取り入れようという流れが背景にあるのかもしれません。考えすぎかもしれませんが……。高齢化が進んでいると言われがち(?)な新響ですが、ここ数年で若い団員も増えてきています。ベテランも若手も男性も女性も、枠にとらわれることなく互いに認め合って音楽を楽しめるのも新響の良さだと思います。


◆最後に
コントラバスという楽器について、私の人となり、新響の魅力について、少しでも伝わりましたでしょうか。維持会員の皆様におかれましては今後とも私たちのことを見守り、ご支援いただけましたら幸いです。不安なことが多い世の中ですが、音楽で心の安らぐ時間を届けられるよう日々精進して参りたいと思います。

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