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小松先生からのメッセージ

● 小松一彦 プロフィール
 桐朋学園大学指揮科卒業。齊藤秀雄氏に師事。
 日本を代表する国際的指揮者の一人である。現在、チェコの名門プラハ交響楽団の常任客演指揮者を務め、2005年6月プラハ響日本ツアーのタクトをとり成功に導くと共に、CD「新世界より、モルダウ」もリリースされた。これまでイタリア放送協会賞、大阪府民劇場奨励賞などを、また2001年、現代音楽・邦人作品での長年の優れた業績に対し、第19回中島健蔵音楽賞を受賞した。2004年1月には世界最高のオーケストのひとつ、名指揮者ムラビンスキーが育て、テミルカーノフにひきつがれているロシアの名門サンクト・ペテルブルグ(旧レニングラード)フィルへのデビューで成功を収め、直ちに2005/6のシーズンに再び出演が決定、世界第一線で活躍・評価されるマエストロの仲間入りを果たす。2008年にはハンガリー国立交響楽団定期演奏会を指揮してハンガリーデビューが決定している。座右の銘のひとつが「プロの技術・アマチュアの心」。
 新響とは1994年「芥川也寸志メモリアル・コンサートⅡ」(映画音楽の夕べ)以来共演を重ねており、今回で8回目(定期では6回目)の共演となる。

●小松先生のご趣味について伺いました。
 私は楽天的な性格からか“人生を楽しむ”のが趣味です。
 よく冗談に言うのですが私の第一の趣味は車、第二はお酒です。この順序は時々逆転しますが‥。3番目はなく(皆さんのご想像にお任せします)、4番目がスキー、5番目が音楽です。
 アマチュアの皆さんによく申し上げているのは、“趣味と道楽は違う”ということです。お酒にもさまざまな文化があり歴史があり、国民性があります。それぞれの地域を知る上の手がかりでもあります。しかし、飲むという行為自体は難しくない、ですからお酒は私にとって道楽であり趣味なのです。
 それに比べ、趣味というものは向上心を持ちある程度の努力を伴って自分が満足していくというものだと思います。ですから自分にとっての趣味はスキーです。少しでも上手くなりたいと思っていますし、時にはインストラクターに指示を仰ぎ、ゲレンデに立ち止まって考えたりもします。新響の皆さんは全員そういうお考えだと思います。オーケストラプレーヤーを生業としていないだけで、120%素晴らしい趣味としてやっていらっしゃると信じています。ですから私は新響が大好きなのです!
 私は指揮者になっていなかったら、デザイナーかレーシングドライバーになっていたと思います。やはりイタリアのデザインと色のセンスは素晴らしいですよね。車はもう40年運転しています。今日も大阪から500キロ運転して帰ってきました。疲れないかとよく聞かれますが、体に良いリズム感がでます。ちょっとスポーティーな運転をすればアドレナリンが出て練習会場に着いたときは120%のハイテンションになっています。ポルシェなどは特にそうです。でもポルシェはブレーキ(車を止める性能)も世界一なのです。筋肉の固まりのようなこの車を運転すると運動神経と反射神経が全開になります。
 車にもまた文化があります。北欧の車はボルボやサーブに代表されますが、何より安全性を追及しています。厳しい自然の中で生きていく民族はお互いにいたわり助け合い、ひとりひとりの命を大切にしているので福祉も充実しているわけです。ですから車の安全性も特に重要視されているわけです。ボルボの企業理念が安全性を目指しているということは周知です。ここにもその国の文化が表れています。
 イタリアの車は、以前はやたらエンジンが熱く、ブレーキがあまり利かない(!)という特徴がありました。情熱的なイタリア人らしいと思いませんか?
 フランスはシトロエンに代表されるようにエレガントな乗り味で、おしゃれな色使いです。僕が一時買おうと思ったルノー・メガーヌのクーペという車は、シートの背中の部分になんとモネの「睡蓮」の絵が描かれています。そんなセンスはフランス車にしかありませんね。
 ドイツの車は一番優秀な車でありたいという意地とテクノロジーが見えます。頑丈でかのヒットラーが残した唯二の良い遺産と云われる高速道路(遺産のもうひとつはポルシェ博士にフォルクスワーゲンを作らせたこと)を走る事が主体の堅実な造りです。ベンツにしてもポルシェにしてもそうですが、昔から金庫のような車を作る上に速さも追求した優越性を出そうとするところはドイツ民族的です。数年前、速度無制限のドイツアウトバーンを最高速度130kmにしようという法案が議会に提出されましたが、結局否決されました。
 イギリス車はジャガーとかランド・ローバーに代表されるようにやや日本車に似ているところがあります。あまり高速道路主体ではないし、当りが柔らかく穏やかと言えるでしょう。私には足まわりが柔らかすぎて個人的にはあまり好きではありません。日本とイギリスは共に島国であり音楽的環境も似ているといえます。
 アメリカの車はアメリカン・ドリームを連想させる豪快さとやや大味な造りがあります。
 このように文化と密接に結びついているので勉強になるし、それぞれの国の車を運転すると、その国の音楽にも結びついていきますね。
 車のクラクションひとつにも文化があります。フランス車とドイツ車の違いですが、フランス車は単音で高めのファンファンという音です。鼻にかかったような音で、フランス語の鼻音と通じるところがあります。ドイツ車はだいたい二つの音でハーモニーができるようになっていて厚みがあります。クラクションひとつとってもこのように文化の違いがはっきり現れます。フランス車のクラクションがガーシュイン作曲の「パリのアメリカ人」の最初にでてきます。私の長年の夢だった企画が、1回だけ実現したことがあります。横浜の「子供の日のコンサート」で、私のプジョーのオープンカーがステージに載り、司会の女性に車の中に座ってもらい私の指揮でクラクションを鳴らしてもらいました。普通は打楽器奏者がお豆腐屋さんのラッパのようなものを持って演奏し、それでも面白いのですが、実際の車とは大分違いますね。オケがターリーラーとやったあと司会の女性がパパパとクラクションをならし、僕がそれに答えパパパと鳴らす。子供の日のコンサートなのでバカウケでした。フランス音楽では鼻音の響きがだせなければ、音楽の重要な要素が欠落してしまします。ドイツ音楽をやるときは音の厚み、クラクションも単音では満足しないというような三度の響きの重厚感のようなものが大切です。
 一時期どこの国の車もグローバリゼーションやコスト削減のための世界規格で同じようになってつまらない時期もありましたが、今はルノーやシトロエンに代表されるように特にルノーは斬新なデザインです。メガーヌの新型はでっちりがボコーンとでているような誰が見ても一回で覚えるような強い「個性」を持っています。このような特徴やアイデンティティをまた出すようになり、1960年代位の形をもう一回リニューアル、それぞれが先祖還りしています。まあ、中身はイタリア車も現在ではコンピューターはドイツのボッシュを使っていますが。
 次にお酒と食のお話をしましょう。タバコは有害といわれていますが、お酒は適度であれば健康によいとか、リラックス効果が認められていますよね。ただ、この“適度”が難しい。(笑)私は毎晩晩酌をし、皆さんともよく飲みにいったりするわけですが、その中に文化があり、それが音楽に通じてくるのです。味覚というのは音楽の味を出すのに非常に重要な要素を受け持っています。毎日コンビニのレトルト食品を食べている人には中身のある味のある演奏はできない。そういうものを食べる場合もあるでしょうが、時々は色々な味の真髄を味わっていないと音楽でも味を出せない。なんでも醤油をかければいいというものではありません。プロの料理人は調理方法を駆使し、いろいろな隠し味、スパイスを吟味し作っているわけですから、それを味わい、わかって音楽に生かせるかということが重要な要素だと思っています。僕はグルメにはなりたいとは思っていないし(鴨肉を毎日食べていたらダイエットできません!)、とてもそんなお金はないですが、いろいろな味はわかるようでいたい。音楽にはその国の国民性、民族の血、地域性、気候風土、言語全部が譜面のなかに滲みこんでいる、練りこまれ、すり込まれているわけです。もちろん短絡的に音楽の「楽」の部分だけが強調されたマーチのような楽しい曲もあります。しかし内面的な深い内容を持った曲であれば、作曲者の個人的な強い、切ない思いまで含めて全部練りこまれているわけですから、それを読み取るという能力はまさに「感性」(音楽脳=右脳)が研ぎ澄まされていないとだめなのです。音楽はなによりも自分の感性が大事ですから。よく音楽がわからないという人がいますが、音楽は感じるか感じないかです。聴衆も演奏者も上級者になれば勿論楽曲のこととか背景とかを研究し、事前に調べて曲を聴こうとするでしょうから、それはそれで大変重要なことです。(言語脳=左脳のバックアップという)けれども、まずは心で感じるか感じないかということです。感じない人にとっては音楽というものはあまり意味のないものではないでしょうか。音楽をあまり知らない人でも、ドヴォルザークの「新世界交響曲」の第二楽章のコールアングレの独奏の部分を聞いたら、普段はクラシックはそんなに聞かないのに涙が出てきたという人がいます。私達にとって西洋音楽は基本的には異文化なのにいったいなぜでしょう。これを題材にレクチャーをすることもあります。感じる心を広げる為にお酒と肴は大切です。拙宅にはお酒のコレクションはホテルのバー位ありますね。色々な味わいから文化を感じようと思っています。最近はダイエットに励んでおりますのでアルコールはワインと焼酎を好んで飲みます。ダイエットは三進二退、時には二進三退になることもありますが(笑)、ようやく完成に近づきあと2キロやせればいいかなというところまで来ました。現在一日1.75食に挑戦中です。これは1回はしっかり食べ、あと0.25と0.5にするということです。朝と夜とでどうバランスをとるかということです。ワインも焼酎も香りがとても大きな要素です。最近気に入っているのはある黒糖焼酎です。黒糖の甘い香りがし、その上米麹で仕込んであるので、麹の香り、醤油の様な匂いが甘い黒糖の香りと絶妙に二本立てで、時にはミックスされて立ち上ってくるのは、この焼酎だけです。名前がまた、いいんだな。“ほどほど”といいます。適度のアルコールは云々の効用に嵌る訳でございます。それに対してワインは同じものであってもボトル一本ずつ全部違う、日本酒もそうですね。色も香りも重い、軽い、コクにしても。音楽に共通してますね。譜面の上に書いてない部分、たとえば音符の重い軽い、温かい冷たいなどというのは感じ取らなければならない。ですから、車、お酒、食事からその国の文化を感じることを大切にしています。それが人生を楽しむことにもつながっています。
 ところで一つの曲を最後まで無事に演奏し終えるということは、スキーでゲレンデを滞りなく転ばないで下まで滑り降りるのと同じです。何百回もやっているような曲、「運命」でも「第九」でも時にはオーケストラがなんでもないところで事故を起こすことがあるかもしれません。スキーで言えば全てわかっているつもりのゲレンデが、その時の雪質やちょっとしたギャップがあってオッと思って転びそうになる、それをリカバリーできるか出来ないかということで、オケの事故も一つのことがきっかけで立ち直る方向に行くのか崩壊に向かうのか、これには鋭い反射神経と運動神経が必要です。そのためにもこれからも私は、健康に気をつけて出来るだけ滑り続けたいと思っています。いつも家内に言われていますが、怪我をして皆様にご迷惑をお掛けしたりしないように気をつけながら続けたいと思っています。
 さて、私はその時手掛けている曲に肉迫し、その曲の内容を抉る事を信条としていますので、演奏者の皆さんがそれに応えてくださることを期待しています。それがあってこそ聴衆にとってインパクトのある演奏となるのです。音楽の演奏というのは“アナログの極致”です。二度と同じ演奏はありません。これを「演奏の一回性の尊さと新鮮さを大切にする」という心根に繋げて行って頂きたいものです。しかも、あの練習の時の演奏が一番良かったとはならない事を念じつつ‥。
 私は、いつも熱く燃える演奏を目指しています。(私の座右の銘のひとつに「熱いハート(右脳)とクールな頭脳(左脳)」というものがあります。また車の話になりますが、所有はしていないけれど、アルピナという車に喩えられるでしょう。)しかし指揮者だけが踊り、また舞い上がるのではなく、オーケストラ・演奏者と強い一体感のある、集中力に満ちたエネルギーが客席に放射される演奏になることを常に心掛けています。
 新響のメンバー・ファンとの新たな、本命的なお付き合いが始まる今回のシーズンを私もとても楽しみにしています。というのはここ数年、半ば意図的に、新響がこれまであまり取り組んでこなかった曲目にも挑戦してもらうプログラムを組み、このオーケストラの表現力の幅・引き出しの数を増やし、成長を促す方向性を打ち出してきたのですが、私がロシアのオーケストラをよく指揮しに行っているという事で、今回のメイン曲に皆様からもご提案のあったラフマニノフの交響曲を一緒に演奏できるのが本当に嬉しいのです。ロシアの空気を吸ってきている小松と重厚な曲の演奏を得意とする新響の組み合わせにご期待下さい。

聞き手・まとめ 村井美代子(Vn)


第197回演奏会(2007.4)維持会ニュースより

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