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井﨑正浩先生のこと

岡本明(Va)

 リコーフィルハーモニーオーケストラという、今年創立20周年を迎えたアマオケがある。主な演奏会は、定期とサマーコンサートなど、これまで42回行なっているが、その第1回定期と94年のサマーコンサート以外はすべて井﨑先生に振っていただいている。私は5年前まで(株)リコーに勤務していて、創立以来ずっと在籍し、転職した現在も常任・トラ代なしの主要(?)エキストラである。井﨑先生によれば、上京して初めて聞いたオケが新響、初めて振った本格的(?)オケがリコーフィルだということで、両方に関わっている私としてははなはだ縁が深い。
 1995年、リコーフィルの練習で歓声が上がった。ハンガリーでのブダペスト国際指揮者コンクールの予選に井﨑先生が通った、というニュースが入ってきたのである。そして次の練習では、優勝したというニュースに大騒ぎになった。「あの時と同じだ・・・」私は1974年の新響の練習を思い出していた。当時、芥川也寸志先生の弟子としてときどき新響の練習を振り、コンクールのための指揮練習にも新響が付き合った小林研一郎氏が、ブダペストのコンクールの予選を通った、優勝した、というニュースが練習のときに入ってきて、芥川先生と共に喜んだのである。新響はこのコンクールの優勝者の小林研一郎氏、本名徹次氏にも振っていただいており、井﨑先生も含めてこのコンクールには結構縁があるといえるだろう。
 私は井﨑先生の優勝記念のパーティの祝辞で、二つの生意気な、しかも相矛盾することを言った。「井﨑先生はリコーフィルでスタートしたのだから、偉くなっても恩知らずにならないで、いつまでも指導してください」、「いつまでもリコーフィルを振れるような時間が余っている指揮者ではいけません」。
 さて、井﨑先生は今もリコーフィルは必ず振ってくれている。新響もお願いしたときは必ず振っていただいている。時間が余っているからではない。律儀な井﨑先生ならではのことである。しかし、もう一つ生意気なことを言わせていただくと、その律儀さを抑えてでも、指揮者としてのカリスマ性をもっと出してもらっていいと思っている。世の中で偉くなっている人柄の悪い人、恩知らずの人はたくさんいるではないか。前回の「トリスタンとイゾルデ」の作曲者ワーグナーもとんでもない人柄だったそうだし。と、いいながら、私は井﨑先生に性格の悪い人になってもらいたいと思っているのではない.その良さを保って,さらに巨匠といわれるようになっていただきたいし、なれる人なのである。新響では思いっきり厳しく指導していただき、井﨑音楽を作っていただけるものと楽しみにしている。


第196回演奏会(2007.2)維持会ニュースより

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